薬研藤四郎

庇護、慈愛

性格備考

粟田口吉光作の短刀で、藤四郎兄弟がひと振り。修業のために安土の代へと赴いて、極となって帰還した姿だ。石造りの薬研をやすやす貫くほどの切れ味を誇るが主人の腹は切らせず傷つけない、と語られる逸話のとおり、常日頃からその兄弟はもとより、いまの主たる審神者を気に掛ける姿も多く見られる。それと悟らせない目配りや気配りは得意だが、何か懸念に差し当たって選びがちであるのは、諫言や説得というよりも手っ取り早い実力行使。色白で端正な外見からすると多少なり意表を衝かれるような大胆さは、流石の戦場育ちだろう。立ち居振る舞いにもその豪快さはよくよく窺え、刀種を超えて何かと頼りにされている。また、これも逸話を象徴してのものか医薬に通じ、ちょっとした傷の手当てくらいであればお手の物。薬湯を煎じるのも朝飯前だ。酒席では持ち前の面倒見を発揮して、特に大勢での宴では飲み過ぎを制し、酔い潰れた刀剣男士の介抱などに回ることも多いものの、当刃としては酒自体は節度を守ってよく嗜む。藤四郎らしく「大将」の守護を第一に置いているけれど、人のかたちに顕現されて幾年、彼ら彼女らの心の動きについては、まだまだ未知の領域との認識が強い。

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(月の綺麗な夜のこと。この本丸で古株に数えられるうちのひと振りであるところの薬研藤四郎は、その晩、小さな酒器を盆に載せてみずからの主の元を訪うた。すでに本日分の執務が終わっていることは、先ほど確認済みである。)大将。ちょいと邪魔するぜ。なあに、たまには一献どうかと思ってな。(襖越しに声を掛け、応えがあれば引手に指を添え、少し開いたのちに爪先を差し入れて身体が入る分の隙間を作ろう。これは両手が塞がっているがゆえの横着だ。そうして部屋のうちに座す主の姿を見とめると、眼鏡越しの両眼をそうと細める。慈しむように。あるいはほんのり、企むように。)……なんでも、大酒飲みたちの秘蔵らしい。折角なんで少しばかり失敬して、月でも花でも、そんなのを眺めながらってのが乙だろう。これで大将も共犯だ。……隣、いいかい。(これでも、いまの主とは昨日今日の付き合いではない。断られないことを把握したうえでの物言いは、にんまりと口元に刷く笑みが悪戯げ。そのまま縁側の障子戸も開け放って、互いに並んで腰を下ろせば、まずはこちらのお酌から。)ははっ。まあ、こうもあからさまだと、大将にはわかっちまうか。……うん。今日は話があって来た。(とはいえ、そう深刻な話でもない。乾杯ののち、些か唇を湿らせればこう続けよう。)俺さ、修業に出ようと思ってる。練度としては十分だろう。四日間、留守にするってのが……心配と言えば心配だが、高みを目指してこそ立てられる手柄ってのもある。俺は、大将の役に立ちたい。(人のかたちで顕現されたからこそ、為せることもあるというものだ。鍛錬でみずからを高めること。こうして酒を酌み交わすこと。役に立ちたいと願い、そのための手段を実行すること。いずれも刀のままではかなわなかったことである。隣の主を振り仰いで。)強くなって帰ってくるさ。大将のためにな。(杯を掲げて、笑った。旅立ちの前夜、ささやかな一幕。)