(通い慣れた店には、他所見をしていても考え事をしていても自然と着いてしまうものだ。一応は店に入る前に看板を振り返って、間違いないのを確かめてからそろりと入っていく。)頼んでいたものを取りに来た。(注文時の控えを店主に渡して、物を受け取った。本体の手入れ用具が一つ、拭紙である。それとは別の新商品があるので試してみませんかと勧められ、断る理由もなく試供品を受け取る。)おぉ、こんなに貰ってもいいのか? いつもすまんな。(試すにしては些か枚数が多いような気もしたが、折角の好意を無下にもできず素直に貰っておくことにした。踵を返して帰りかけたとき、何気なく目が合ったものへと歩み寄る。)たくさん貰ってしまった。いくらか貰ってくれんか。……あまり沢山持って帰ると、金の心配をされてしまう。(困ったように笑いながら、助けを求めるように手のひらの拭紙を差し出した。間を挟んで吐露したのは、ものすごく私的な事情である。試供品を貰っただけなのだが、誤って買いすぎたのだろうと言われる予感がしたため、それを回避したかった。)
09/13 21:08*95
(容貌や言動は幼くとも相手は人間よりも長く生き、長く歴史を見てきた付喪神。彼らを敬う心を忘れた訳ではないものの、それでも甘い菓子に喜び鬼事に駆けずり回る姿を見遣れば溜息だって吐きたくなろう。)おい今剣、愛染! あんまり遠くに行くなよ、お前らが迷子になったら僕が探し回る羽目になるんだぞ。(この日の共は刀派の異なる短刀二振り。しかし今日は短刀たちに引っ張られて万屋街に連れて来られたのではなく、珍しく男自ら万屋街へ行くと切り出したのである。「わかってまーす!」と小さくなっていく二振りの背中を肩を竦めて見送って、執務に使用する固形墨を求めて万屋へと足を踏み入れたその矢先。思わぬ邂逅にきょとりと瞳を丸くするも、概ね事情を聞けばふっと表情を綻ばせて。)は、お前の主は随分と心配性なんだな。それともお前、意外と金遣いが荒かったりするのか? まあ拭紙は在って困るものではないからな、貰ってやるよ。(己の本丸の三日月宗近はさて、金の使い方は如何だったか。冗談めかして告げる音は軽く、不遜紡ぐ口は健在。差し出された拭紙は遠慮なく受け取って、代わりに空いた掌へと懐より取り出した金平糖の包みを乗せようとするだろう。)ツイてたな。拭紙の礼だ、甘いものは嫌いじゃないだろう?(問い掛けたくせ、確信しているように口の端をあげて笑った。)
09/13 23:59*99
(相手の都合などお構いなく声をかけるのは不躾であったにも関わらず、相手は怒りもせずにくるりくるりと表情を変えるものだから、つい見入ってしまった。軽妙に紡がれる言の葉を受けて、大らかに笑う。)はっはっは、金遣いが荒いとは初めて言われたな。だがまぁ、当たらずと雖も遠からずだ。気付くと財布が軽くなっている。(他人事のように平然と述べつつ、拭紙が相手に渡れば安堵の表情を浮かべたのも束の間。)拭紙が甘味に変わったか。これは面白い。(口ぶりからするに、相手の元にも三日月宗近がいるのだろうかと感慨深く頷いてみせる。)愛されているな。(肝心の主語を抜かしたために、恐らくは要領を得ないであろう。言葉遣いや態度とは裏腹に、誠実で律儀な印象を受けたものだから。眼前の相手は周囲に愛されて生きているのだろうと、素直な心が口を利いた。)その拭紙は新商品だそうだ。ちと値は張るが質は良い、必要ならば店主に声を掛けるとよいだろう。……して、ツイているとはどういうことだ?(常に甘いものを持ち歩いているのではないのかと問いかけてみたり、一体いつまで相手の買い物を邪魔するのやら。程々のところで、感謝と別れの言葉を告げるはず。)
09/14 20:16*106
気付くと……、……まさか僕のところの三日月もそうなのか?(彼の刀の本質は、何処の本丸に於いても変わらぬものであるのだろうと言葉を交わしてみて思う。しれりと述べられた音を聞けば若干の危機感を覚えたものだから、今度財布の調子を確認してみるべきだろうかと考えるよう眉根を寄せた。金の使い方を危惧しているのではなく、どちらかといえば妙な壺を買わせるような商売に引っ掛かっていないものかという心配が優ってしまうのは、彼の浮世離れした性分を知るが故こそ。受け取った拭紙を腕に抱え、渡すべきものも手渡したなら、さて目的のものを探そうと店内へ視線を向けた折。)は?(耳慣れぬ言葉にきょとんと瞳をまるくして、ぽかんと開いた口からは間の抜けた声がまろび出る。脳が言葉を理解するまで暫し間抜け面を晒す羽目になったものの、漸く理解が及べば益々意味をはかりかねて眉を顰めてしまった。)あ、……ああ。使ってみて良ければそうさせてもらうが、(歯切れの悪い言葉となったのは先刻の彼の言葉が未だに尾を引いている証左。ちらり、と腕に抱えた拭紙を見遣りつつ。)僕が日頃から甘味を持ち歩くような男に見えるのか? 偶然に感謝しろってことだよ。(先刻駄菓子屋に寄ったからこその偶然なのだと、笑うように吐息して。なんだかんだと話しに付き合ってしまうのは彼の刀の在り方がそうさせたのだろう。「あるじさーん!」元気な短刀の声が聞こえるまであと少し、それまでは言葉を交わしていたに違いない。)
09/16 00:01*121