(自分では無いなにかになりたい時がある。その頻度は他人に比べて多いかもしれないが、そんな欲求を簡単に満たしてくれるのが化粧だった。目元をいつもより濃い目に、色も普段は使うことが少ない濃い紅色を選んで。そうすればいつもより気持ちも強くなれる――そんな気がする。だから化粧は好きだ。ちょこちょこと口紅などを買い求めており、数少ない外出先のひとつである小間物屋は所謂常連でもあった。今日も「新作が入荷した」という連絡を貰い、化粧に理解がある刀剣男士を引き連れてやってきた訳で。)……この色とこっちの色、…どちらが良いと思う?(新作である濃い赤と茶色が強い赤、二つの色を腕に塗って確かめて。どちらも捨て難いから、意見を聞きたい。傍にいるのが自分の刀剣男士だと信じて、顔を横に向けて首を傾げた。)
09/13 14:06*91
(なんてことはない、いつも通りの恙無い非番の日。どうにも本丸内にいると目に付いた事務作業を先回りしてやろうとしてしまうのは最早癖のようなものか、それとも山姥切長義が持ち得る性格的なものなのか――兎にも角にも、これでは休息にはならないと気分転換に足を向けたのは万屋街であった。特に宛てもなく歩き回ることは性分ではない為、道に沿って歩みを進める。そしてある小間物屋の前を通りがかった際、そういえば乱藤四郎が「新作の口紅が出たんだって!いいなぁ~!」なんて言っていたことをふと思い出しては、店内へと冷やかしに入っていた。)櫛、笄、簪……そして化粧品か。俺には縁のない物ばかりだが、さて……。(陳列されている棚を順繰りに見遣っては、ぽつりと独り言を。丁度口紅が並ぶ一角で足を止めては噂の新作とやらを何と無しに探してみる。そんな時、突如かけられた声は静かでありながらもよく聞こえただろう。青い瞳を其方へ向けたなら、その双眸は少々瞠目しているやも。)――俺、だろうか。……成程、その二色で決めかねているというところかな。(驚きの色を滲ませながらも、視線はその二色を試したであろう彼女の腕へ。そのまま「失礼する」と一声を掛けたなら、グローブを纏ったままの己の手で軽く彼女の手首を掬い上げようか。)そうだな、紅については専門外だが……こちらの濃い赤は、今の君が施している化粧と似ている。きっと似合うんじゃないかな?(濃い赤の方をもう片手で指差しながら視線は彼女の目元へと。そうして漸く手を放し、どこか満足気に双眸を細めてみせた。)
09/13 19:23*94
(己の傍らにいるのがまさかの見ず知らずの刀剣男士だなんて、欠片もその可能性を疑っていないから。緩く傾けた顔には気を許したような笑みを模っていたのだけれど、すぐに固まることとなった。―――…っ、あ…、(緩く細められた瞳はみるみるうちに限界まで見開かれることとなり、驚きが滲む青い双眸から目が離せない。驚愕が過ぎると悲鳴も出ないらしく、喉の奥で絞められた様な声を鳴らした後は口を数回開閉させ、わかりやすくも身体を硬直させた。そして瞬きすら忘れ、手首を掴まれてとしても彼のなすが儘。)………、ありがとう…ご、ざいます。(手を離されたことにより漸く我に返ると弾かれたように顔を逸らし、羞恥から仄かに赤みを帯びる頬を隠さんと伏せて。きっと彼にとって突然の訳がわからない質問であったのに、きちんと考えて答えてくれたことに申し訳なさが募り穴があったら入りたいぐらいだ。)すみません、いきなり失礼しました…。私の本丸の、刀剣男士だとばっかり。(会釈程度の角度ではあるものの頭を下げたまま辿々しく謝罪を述べた後、彼が選んでくれた濃い赤の紅を手に取った。)こちらの方をいただいていきます。…あの、……お力添えいただきありがとうございました。(一度深く頭を下げると数歩後退りで彼から距離をとったあと踵を返して会計に向かおうか。共に来た加州清光を見つけるとその腕を縋るように強く掴んで、無言のまま会計を終え帰路につこうか。その最中、ぽつりと溢すのは――「山姥切長義が凄くスマート過ぎて怖い」であったとか。)
09/15 17:35*110
(己を目に留めた瞬間、此方を見遣る彼女の表情がみるみる強張っていったことを察するに、十中八九人間違い――元い刀違いであることは間違いなかった。ただ、それで怯んだり口を噤むといった物怖じをする程コミュニケーション力が無い訳でも無し、とは己への自負。故に彼女の手首を取って齎した感想だってごく自然に口を吐いたものだった。特に悪びれる様子も無いが、流石に彼女の顔色から窺える羞恥の色には己の口許をひとなぞり。そして緩く首を横へと振ってみせようか。)いいや、そんなところだろうとは思っていたよ。……君の刀剣男士ではないが、通りすがりの俺の言葉は目利きの手助けになったかな?(したり顔なのは最早仕方の無いこと、どこか面白がるようにも映ったやもしれない。それでも彼女が手にした濃い赤色の紅を見ては重畳とばかりに双眸を細めたことだろう。)ああ、そうするといい。似合うと言ったことに偽りはないからね。(柔和な笑みを以って返答するや否や、後退りをするその姿には少々瞠目する。そして踵を返していった姿を見送るように数度の瞬きを。その後、手の甲で口許を覆いながら噴き出すように零した笑みは店内では些か目立ったやも。――本丸への帰還後、話題の提供者たる乱へ土産と称して件の紅を渡したなら「やったぁ!ありがと、長義さん!……でも、どうして?」と首を傾げる姿を横目にし、涼やかな笑みと共に呟くのだった。)――なに、良いモデルがいたんでね。
09/15 19:09*113