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(天候とは気紛れなものである。先刻まで晴れていたかと思えば急に雨が降り出すなど珍しいことではなく、陽射しの下を悠々と泳いでいた洗濯物を今し方慌ただしく取り込み終えたところであった。次いで一息吐く間も無く本丸を騒がせたのは半刻前に友人の審神者と出掛けた主の話題である。晴れ間に出掛けていった主が傘を持っていった筈もなく、斯くして誰が主に傘を届けに行くか揉めに揉めた末に大広間に居合わせた刀剣男士全員を巻き込むじゃんけん大会が始まり、なんと見事に勝利を勝ち取ってしまった訳だ。)主殿が向かわれたのは確か、呉服屋であったな。(兄弟刀に聞き及んだ情報を思い出しながら番傘を片手に呉服屋へと歩みを進めていた道中。ふと軒先に居た人物と目線が合ってしまったなら、ついそちらへと足が向かってしまった。というのも、遠目から見たところ傘を持っていないように思えたからだ。)おお、貴殿も雨に降られたのであるかな。お困りであればこの傘をお貸しいたすが、待ち人はいるのであろうか?(誰かに傘を頼んでいるのであればそれでよし。そうでなければこの手にした傘を貸すことも吝かではなく、首を傾げて問い掛けた。)

09/09 23:53*26

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(突然降り出した雨は徐々に大粒になっていき、濡れるのを避けるべく目についた軒下へと逃げ込めば諦めたように目を伏せた。)………ついていないと言うか、私が雨女なだけなのか。(好んで一人で万屋街に買い物に行く性質でもない。手持ち無沙汰になれば本丸でぼんやりと過ごす事に幸せを感じる出不精と言うべきか引き籠もりの素質を持っているにも関わらず一人でこの場に佇んでいるのは、自らの消耗品を買い求めに来たからで。刀剣男士の手を煩わせる訳にはいかないと一人で赴いたは良いものの、まさか雨に降られるとは。生憎傘も持参していないし、さてどうしようか。ゆっくりと瞼を閉じると無言で地面に叩きつけられる雨音に耳を澄ませていたのだが――突如耳に飛び込んでくる別の音に弾かれるように目を開いた。)あ、……えぇ、と。待ち人はいない、けど……貴方も訳あって傘をお持ちなのでしょう?それを奪う訳には…。(知らない刀剣男士ではないけれど、やはり別本丸の男子となると緊張感が漂う。彼を捉えた視線はゆっくりと地面へ下ろされ、僅かな沈黙の後、)…お気遣い、感謝します。

09/10 08:05*29

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(不躾に女性を眺めるようなことは出来ぬものの。訊けば矢張り傘は持たず、待ち人もおらなんだと言う。地に落ちてしまった彼女の視線を追うことはせずとも慎ましい言葉を耳にしたなら、呵々と雨音を掻き消す豪快な笑い声を響かせた。)カッカッカ! なあに、そういうことならば心配ご無用。雨の中傘を持たぬおなごを置き去りにしたなどと知れては、拙僧が主殿に怒られてしまうのでなぁ!(曇天より降りそそぐ糸雨は未だ已む様子を見せず。例え行き交う人々の中に同じ本丸の刀剣男士が居たとしても自ら申告をせぬ限りは此度のことが主の耳に届くことはないとはいえ、それらしい理由を付けてはいまひとたび赤銅色の瞳を軒下の彼女へと向けて。)この傘、貴殿さえよければ使ってはくれぬだろうか?(糸雨の間に閉じた番傘を差し出した。とはいえ無理矢理に持たせるつもりはなく、それでも彼女が否というのであれば押し付けるような真似はしない。受け取って貰えるか、或いは首を振られるか。どちらにしろ雨の似合わぬ刀剣は太陽のようにニカッと笑って、)それでは拙僧は主殿を迎えに行かねばならぬゆえ、これにて失礼する!(かんからと一本歯下駄を鳴らして去ってゆく。こののち、主を迎えに行った呉服屋で番傘をめぐる一悶着があったのだが、それはまた別のお話。)

09/10 16:27*33

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(この世に生を受けて、三十年と少し。快活だとはお世辞にも言われたことがない。それより反対の位置に座するのがこの女だ。沈黙のまま雨が打ち付け弾く濡れた地面を見つめていたのだが、溌剌たる声に肩を大きく震わすと弾かれたように顔を上げた。)置き去りにしたなんて、そんな…。見ず知らずの私にもお声掛け下さる貴方のお優しさだけで、充分です…。本当に、…とても、有難く。(他所の刀剣男士と向き合う緊張感から強張っていた身体を溶かすのは、彼の悪天を吹き飛ばすような明朗な物言いで。自本丸の山伏国広ではないけれど、変わらぬ太陽のような雰囲気につられるように微かながらも頬を綻ばせた。そして差し出された番傘に最初は恐縮と戸惑いから手を伸ばす事が出来なかったけれど、その裏のない笑みに最終的に何度も何度も頭を会釈を繰り返しながら、両手で受け取って。)…本当に、有難う御座います…。この礼はいつか必ず、(善意を断り続けるのは良い事ではない―それは自らの刀剣から学んだから。傘を抱えたまま去っていく背に向けて深々とお辞儀をしながら見送って。そして顔を上げた時には勿論彼の姿はなかったけれど、同時に思い至る。どの本丸と聞いていなかったことを。失態に自己嫌悪に陥りそうになるものの、一先ずは傘を貸してもらえたのだ。彼のお陰で濡れずに帰った、反省はその後に。)

09/12 16:00*75