――あら、(柔くて甘い獣の声がした。思わず足を止めて、店と店との間に伸びる細い路地を覗き込む。娘はこの日、買い出し組について万屋街に来ていた。娘のお目当ては所謂参考書だ。娘は審神者になってからもう随分と経っていて、学校というものから遠く離れてしまっていた。元々特別扱いされてばかりで友人という存在がなかったから別に特別友人が欲しいわけでもなく学校生活に憧れもなかった。うまく溶け込める気がしていたのもある。それはともかくとして娘が懸念していたのは学習機会の方であった。他の審神者たちが当たり前に学んでいることを知らないのは自分の作り上げている設定上非常によろしくない。そこで夜な夜な勉学に励んでいるのだ。昨今は便利なもので学校と場所に行かずともそれなりに学ぶことが出来た。そして今日もまた新たな本を探しに来たのだった。)……ぅ、ん? ねえ。今、ねこの声を聞いたでしょう。(本屋への道で猫の声を聞いた。可愛らしい声だったから子猫かもしれない。前を行く連れの刀剣男士に手を伸ばしてそう尋ねたのだったが、路地ばかり注視して前を見ていないその手は空を切ったか、または誰か別の者にぶつかってしまったか。)
09/09 18:57*12
(買い物は気分転換に打ってつけの方法のひとつ。不安を隠していつでもご機嫌に笑っている女が、ほんの少しだけ気持ちを緩められる、貴重な時間。その日は写真集や詩集など感性を豊かにしてくれる本を欲して、書店に向かっていた。――その道中、不意に耳が拾ったのは猫と思しき小さな鳴き声。どこかに猫が隠れているのだろうかと首を傾げた直後、同じように誰かの声がして、とんと少しだけ肩触れあう感覚が生じた。声に気を取られて、前方の注意が疎かになっていたのは女も同じ。)……あ、ごめんなさい。大丈夫?痛くなかった?……猫っぽい声、聞こえた気がするけど…もしかして、貴女も聞こえた?ふふ、嬉しい。お仲間さんがいてくれた。ちょっと心許ないような鳴き方って気がしたから…子猫か、迷子の猫かな。(にこにこといつも通りの笑顔を浮かべながら、自分よりいくつも年下だろう少女に声をかける。その声は同志を見つけたような親しみを宿して、向けられた声が自分に対するものでないとは思いもしないまま。)
09/09 19:56*14
(とん、とちいさな衝撃。それは同時に少し柔らかで、直ぐに連れの者ではないことが解った。謝らねばと慌ててその肩の主の方へ顔を向ける娘は瞬間息を呑む。)ごめ…… んなさい。(漸く謝りの言葉を紡ぐもそれは途切れがち。何故ならそこにはふわふわの笑顔が在って、その上それが自分に向けられていたのだから。嫋やかなお姉さんの姿は新鮮で眩しくてほんの数秒言葉を失っていた。少しだけ見上げる形となる睫毛がぱちぱちと揺れた後で、はたと我に返るとニコリと口元だけの笑みを慌てて繕った。)――貴女こそ痛くはありませんでしたか。私、鳴き声が気になって余所見をしてて……、 迷子……は大変。 あ、あの……、少し見てもらっていいですか。私だと……、怖がらせちゃうかもしれないから。(にこにこの笑顔にすっかり絆され、いつもの涼しい顔も忘れてしまった。ちらと路地の方を見つつ、お願いをしたのは猫だってふわふわの笑顔の方がきっと良いと思ったから。そんなやりとりの内に先に歩んでいた連れが戻ってくるのだろう。それから「御友人ですか」なんて聞かれ、そんな恐れ多いと首を振る場面が別れる前にはあったかもしれない。)
09/09 23:19*24
いえいえー!そんな、私もよそ見してたんだから、気にしないで。(ふるりと大きく首を横に振り、向ける笑みは微笑ましがるような大らかさを宿して。いきなり砕けた態度で怯えさせてしまったかと笑みはそのままに眉だけ少し下げて、そっと少女の様子を窺おう。)うん、ほんとに全然痛くなかったから、安心してね。ふふ、それも同じだ。猫が近くにいるのかな?って思ったら、つい姿を探しちゃって。…ん?いいけど、もし本当に迷子の猫だったら、そのときは飼い主を探すのを手伝ってもらえたら嬉しいな。大丈夫、迷子かもしれないって心配するような心優しい貴女の事を怖がったりしないはずだから。ねっ?(お願いごとは快諾しつつ、こちらからも図々しいお願いを重ねて笑いかける。そうして探してみたが、猫は鳴き声だけ残して忽然と姿を消してしまって見つけられず、残念そうに「いなかったよー」と彼女に報告するのだろう。そこに彼女の連れの姿が戻っていれば、彼にも挨拶をしつつ「…私はお友達だと思ってもらえたら嬉しいんだけど、もうちょっと仲良くならないと駄目かな?」なんて軽やかな口調で返して、また会えたらその時はお茶でもしないかと投げかけて、彼女たちに別れを告げるだろう。)
09/10 17:33*36