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(長閑な昼が過ぎ、日が傾き始めたころに衝撃が走った。縁側に居たこの刀は重い腰を上げ、瞳に凍て月を宿す。非番の日々に絶えず戦装束を纏い続けていたのは、もしもの備えであり、ある種の願掛けでもあったが。)――とうとう来たか。(本丸が手薄なところを狙ってきたのは敵ながら天晴。だからといって易々と落とされるつもりは毛頭なく、侵入してきた遡行軍を即座に斬り捨てる。有事の際は、矢面に立つと以前から決めていた。)お前たち、手を貸してくれるか。じきに出陣部隊が帰ってくるだろう、それまで本丸を守らねば。(残っていた刀たちの気配を感じて呼びかけたが、彼らは己よりも前に出て言う。主君を頼みます、と。)だが、……わかった。ここを任せたぞ。(異を唱えかけたが彼らの意を汲んで、静かにその場を離れた。練度の低い彼らが、練度上限の己を主の元に行かせたがるということは、芳しくない状況であると理解した。主がいるとすれば、あるいは他の刀がとりあえず主を隠すとすればどこか。そうしてやってきた執務室の前で足を止めた。冷たい月を瞼の裏側に仕舞い込んで、いつも通りの穏やかな声を意識的に発した。)主はいるか? 迎えに来たぞ。(襖の引っ手に確と手を添えてはいるが、まだ開けはしない。返事を聞いてからでないと、主を驚かせてしまうだろうと思って。)

09/17 10:37*5

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(本丸の空気が変わった。それに気づいた途端に過ぎるのは、ひどく嫌な予感。じとりと冷や汗が滲むのを感じながら、とにかく出陣中や遠征中の部隊と連絡を取り、緊急に彼らを帰還させようと試みたが無駄だった。頼みの綱の政府との連絡も絶たれており、まさに孤立無援、四面楚歌。騒がしいのは外なのか己の心か、何が悪かったのか。震える手をぐっと握りしめ、本丸の刀剣男士に話を聞こうと立ち上がり――襖越しに聞こえる声に動きを止めた。)……いるよ。そっか、三日月が来てくれたんだ。どうぞ、入って?(いつも通りに笑みを浮かべて、入室の許可を出す。彼の姿を確認したなら、やっぱり笑ったまま。)……敵襲だって。皆は大丈夫?ごめんね、心配かけて。……でも、大丈夫だよ。私が、どうにか…どうにか、するから。何か手を考えるから…大丈夫、大丈夫。(繰り返す大丈夫には何の根拠もない。現状、全ての連絡が絶たれ、本丸内に残っている戦力を考えたら状況は控えめに見積もっても絶望的でしかない。けれど、それを口にする勇気を女は持てなかった。言葉にしたらもっと悪くなりそうで、大丈夫だと唱えていなければ、動揺を隠せないから。)

09/17 15:48*13

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(向こうから主の声が聞こえ、胸を撫で下ろした。許しを得たので堂々と、しかして速やかに執務室へ入れば襖をすぐさま閉める。たった一枚の隔てであるのに、外の喧騒がとても遠くに聞こえるようだった。)ああ、そのようだ。本丸に残っている皆が果敢に戦っている。俺は、皆に主を守るよう言われて来た。……いや、俺が守りたいと思っていた。それを見透かされたというべきか、ははは。(主のいつも通りの笑顔に応えるように、こちらも平時のごとく笑ってみせた。隠してばかりの本音を、今は少しずつ滲ませていく。)主の言葉に、皆いつも励まされてきた。今しばらくは持ちこたえられるだろう。(やんわりと左手を差し伸べて、主の手のひらを求めた。そこに美しく彩られた爪先が乗ろうと乗らまいと、次の言葉を紡ぐ。)大丈夫、大丈夫だ。……一度言ってみたい言葉だった。(決して揶揄するつもりはなく、寧ろ心を込めて唱えては穏やかに微笑みを浮かべる。)俺は主の笑った顔が好きだ。だが、出来れば本物がよいな。(主が湛え続ける笑顔も、ある種の願掛けのようなものだと薄々気づいていたが、指摘するのは恐らく初めてだ。触れてしまえば壊れてしまいそうで、ずっと言えずにいたのを遂に口にしてしまう。)――さて、ここもじきに危なくなる。茶室の床の間が、隠し扉になっているのは知っていたか?(問いかける声色は、まるでかくれんぼにでも誘うような妙な軽やかさを纏って。)

09/17 21:29*18

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そっか、皆にも苦労をかけて…申し訳ないね。……ありがとう。三日月に守ってもらえるなら、こんなに頼もしい事もないよ。(静かに伸ばされた手と彼の顔を見比べて、それから遠慮がちに片手を重ねる。)言ってみたかったの?なら、いつでも言ってくれたらよかったのに、…って、いつも私ばかり言ってたから言う機会を取ってたかな。(少しだけ眉尻を下げて微笑みかける。)あ、うん…あり、がと――…っ!……気付かれて、たんだ。(感謝を紡ぎかけた声は不意に途切れ、ずっと保っていた笑みにヒビが入ったように凍り付く。だけど、笑顔抜きに向き合う強さを女は持たなかった。そして本物の笑みを浮かべられるほどの余裕もとっくにない。結局、笑っていないとやはり不安な女は凍り付いた顔を間もなく薄い笑みの形に戻すのだけど。)え…?そんなものがあったの、全然知らなかった…。主なのに、情けないや。なら、出来るだけ残ってる子たちを其処に匿って、それで……。(土壇場で明かされる隠し扉の存在に双眸は驚きで大きく瞠られた。しかし、それが僅かな希望に繋がるかもしれないと思えば、やや強張った笑みを浮かべて。)

09/18 00:32*23

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(心配や苦労など、そんなことはないと言ってしまうのは簡単だが、それで主の心が上向くとは思えない。なれば粛々と受け止めるのみに留め、感謝の言葉にはゆるりと頷き返した。白魚のような手が己が手に重なり、戦装束でなければ直に主の熱を感じられたはずで何とも口惜しい。)いつも主が繰り返していたからこそ、言ってみたいと思った。俺ではどうやら、上手く使えぬようだな。(やれやれと肩を竦めてみせる。たった一度唱えただけでは、とても主には及ばないと理解もしよう。固まる主の表情をまじまじと、注意深く見つめていた。あえて口にしたのは、今言わなければ次の機会はないかもしれないという決心の上。それでも笑みを絶やさない主の、なんと健気なことか。)隠し扉は今剣から教えてもらった。中はあまり広くないが、短刀であれば三振ほど入れるそうだ。脇差ならば二振、大きいものは入るのが難しいらしい。ちなみに岩融は入れなかったそうだ。(隠し扉の向こうは、あくまで一時的に身を隠す僅かな空間があるだけ。主に要らぬ希望をちらつかせたようで、申し訳なさから首を垂れた。)数を残すならば、主を送り届けた後で短刀を向かわせよう。敵は本丸ごと破壊はしまい。そのつもりならば、最初からそうしているだろうからな。(遡行軍に建物を破壊する用意がないならば、主は助かる見込みがあると希望が持てる。)……主、今まですまなかった。いつかこんな日が来てしまうのではないかと恐れ、本丸を離れられなかった。だが、ようやく好きなように動ける。(聞きようによっては、待っていたと言わんばかりの口ぶりであった。刀剣男士としての務めを放棄したに等しいこれまでの日々を詫びつつも、本丸に留まり続けた己が意思に一切の後悔はない。)必ず、主を守る。

09/18 14:17*30

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そんなことないよ。私だって、きっとそんなに上手く使えてなかった。(仄かに下げた眉で苦笑いして、小さく首を横に振る。指摘されても笑ってしかいられないのは強さでもなんでもなく、これ以上情けない姿を見せないため、他に手段を選べない女の弱さ。)そっか。……でも、そういう場所があるだけ有難いよ。教えてくれて、ありがとう。(緊急事態に備えた避難場所と思えば彼の説明は当然のもので、申し訳なさそうな仕草に微笑み浮かべて。)……いい。私の事は後回しでいいから、皆を残して逃げるなんて、そんなこと出来るわけない。私は、この本丸の主だよ。(この事態に咄嗟の対処もしきれない未熟さを噛みしめながら、それでも主の矜持は捨てられないと唇に力を込めて。)三日月、……。そんな風に考えていたの。それで、ずっと本丸に留まってくれていたんだね…。いつか、三日月が修行に行きたくなる日が来るかもしれないから、それでも大丈夫なように皆を育ててきたつもりだったけど…。(とうに修行に出られる練度なのに、本丸を離れずにいるのを不思議に思ってはいたが、修行に行くも行かないも彼の自由だと口出しはしてこなかった。その真意が初めて明かされ、女の瞳は驚きに大きく瞠られる。)ありがとう。でもね…私だけが守られても、皆が居なくちゃ、何の意味もない。皆が居るからこその、本丸なんだよ。(彼の言葉はこの上なく頼もしい。けれど己一人守られる事を女が望めるはずもなく。)

09/19 07:07*41

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(御身を省みない考え方には同意しかねるが、誇り高き主の心は尊重したい。この刀にしては珍しく眉を顰めて、憂いを露わにした。何かを言おうとしたが口を閉ざし、まずは己の不義を詫びるに至る。)主の手腕は確かだ。皆もめきめきと力を付けてきた。あと少し、時間があれば良かったのだがな。(今日という日が悪かっただけと流してしまえれば良かったが、さすがに笑っている場合ではないと自重する。主を驚かせてしまったようが、まあ胸の内を打ち明けるとはそういうことだ。いっそ清々しい表情で、繋いでいる主の手を軽く引いてみよう。叶うならば、抱き寄せてしまおうかと。己が目に浮かぶ三日月が、主によく見えるように。)――主よ、ならば共に果てる覚悟はあるか? 出陣しているもの、遠征しているものたちが帰還した際、何も残っていない本丸を見せる覚悟はあるか?(責めるつもりは無くとも、そう聞こえるかもしれない。だが敢えて、淡々と問うた。全ての無事を望めるほどの状況ではないと暗に告げながら、言葉を重ねる。)主なき本丸に、何の意味がある……。(悲しみの色を浮かべ、力なく呟いた。)

09/19 12:16*43

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うん。それが嬉しくて…油断があったといえば、それも否定できない。……そうだね。(自分がもっと準備を整えていれば、本丸を手薄にしなければ、もっと笑っていたら。浮かぶ後悔はキリがなく、気を抜くとぐしゃりと歪みそうになる顔を無理やり笑みの形に保つ。想定外の彼からの告白にも動揺していて彼の挙動に対しては無防備に等しい体はあっさり引き寄せられ、彼の胸元に大人しく収まってしまうはず。)……っ。私だけが助かるくらいなら、そのほうがずっと。何も残っていなくても、あの子たちがいるなら。帰ってきた子たちが、そのときはどうしようもなく絶望しても……いつかきっと立ち直って、何もないところから、また一から…新しく、作ってくれるって…そう思えるから。そういう覚悟なら出来るけど、私だけ逃げる覚悟は…永遠に出来そうもないよ。(優柔不断な女は選択が苦手だ。しかし、彼の問いに返す答えは迷わなかった。浮かんだままの笑みは以前より力なく。)……そう思ってくれるのは、嬉しいよ。でも、私も同じなんだよ。三日月や皆の居ない本丸に、意味なんてない。たとえ私だけ助かって、別個体の同じ刀剣が来てくれたとしても、駄目なの。……ごめんね。(己のわがままで彼を悲しませている事も理解しながら、それでも譲れないことはあるのだと、この期に及んでも泣きそうに笑う。これ以上の悪いことを恐れるように。)

09/19 21:06*54

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(あと少し、もしも。そんな光景は数えるのを止めるほど見てきたが――今日という日が、主に笑顔を強いる瞬間が、来なければいいと願ってきたのもまた事実であった。不意を突いたとはいえ容易く主を抱き寄せてしまえたのは、かよわい人の体をありありと感じるばかり。)過度の信頼も考えものだな。皆いつ何時も主の刀でいたいのだ、修行したものは特にそうであろう。……永遠、そうか。(意味ありげに呟きながら、主の笑みから幾ばくか力が抜けている様を見下ろして、ゆるり瞬いた。)物は、持ち主に似る。よく似ていると思わんか?(主にも思い当たる節があればと抽象的に問いかけた。悲しみはそのままに、主の柔らかな髪ごと頭をやわく撫でやろうとする。ゆっくりと、いたわりいつくしむように。)主が曲げられぬというなら、ここは俺が折れるとするか。(何に替えても主を守りたいというのは、言ってしまえば己の勝手な思いに過ぎない。主が望まないのであれば、それこそ意味がないのだと諦観した。)何か思い残すことはないか。俺はあるぞ。縁側にいもけんぴを出しっぱなしにしてきた。あれでは湿気ってしまう。あとは、そうだな……(暫し考え込んだ末、思い出したように、ぽつり。)主に送り出してもらえないのは、ちと残念だ。(あと少し時間があれば、強くなった皆に本丸を預けて修行に出ても良かった。主や近侍に見送られ、そして温かく迎えられる心地を知る機会は終ぞ巡ってこないらしい。)

09/20 15:40*65

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(どんな願懸けも太刀打ちできぬ災厄も数多く存在する。そう理解していても、それが自分の本丸に降りかかる日のことを本気で危惧して備えてこなかったのは間違いなく己の落ち度。彼らを大事に思うほど、最悪の事態の対処法を話し合っておくべきだった。失い難い温もりに包まれるほど、浮かぶのは後悔ばかり。)ううん、皆…私には勿体ないくらいよく出来た、誰にでも胸を張って自慢できる子たちだよ。(彼らの事を語るとき、自然と表情は誇らしげに綻んで、強がりの笑みがふっと和らぐ。)……そうだと嬉しいけど、ダメなところまで私に似ちゃったら申し訳ないな。(小さく眉を下げてほんのり笑う。幼子にするように頭を撫ぜる手は優しくて大きくて、甘えたくもなるけれど。)……っ!ご、ごめん、……縁起もへったくれもないのに、過剰に反応しちゃって。(折れるという言葉に凍った顔でびくりと大げさに肩を揺らしてしまうのは、臆病な女の性質を象徴するように。)そう言われると、うーん…ふふ、三日月らしいね。……私も。おかえりって送り出して、ますます強くなって戻ってきた三日月をただいまって迎えたかったな。それが一番の心残りかも。(やんわりと笑って、もう戻れぬ平穏な日常を見るようにきゅっと瞳を細める。それはどこか懐かしむようでもあって、悲嘆の色はごくごく薄っすらと。)

09/21 19:51*78

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(主の笑顔は一定を装いながらその実、変化に富んでいる。誇らしげに語る様は間違いなく本物であり、己としても純粋に喜ばしい。主のダメなところが何一つ思い浮かばず、至極真面目に答えた。)どこがダメなのかさっぱり分からん。主がそう思っているだけで、他のものはさして気にしていないかもしれんぞ。信を置くものたちに気を使いすぎではないか。(主という立場が誇りであり、同時にしがらみのようにも見受けられた。張り詰めた糸を切るのが容易いように、危うい。己の言葉ひとつで、こんなにも身を震わせたのだから。)折れないほうが良いのか?(聞き流してやるのが優しさならば、これは酷な質問だろうか。主の頭を撫でていた手を、今度はその背に添えてみよう。とんとんと優しく、あやすような手つきで。)はっはっは、俺らしいか。それは心外だな。普段はちゃんと片付けているぞ。(ただし、片付けの詰めが甘くてし湿気らせてしまい、小狐丸に注意されるまでの流れがよくある日常であった。)主も俺と同じように考えていたならば、それで良しとするか。(こんな風に、お互いが同じことを思い描きながら交わらなかったことが確かに存在する。挙げればきりがないかもしれないと、目元を和らげた。)

09/21 21:48*82

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(いつでも笑っているつもりで、彼に指摘された”本物”を浮かべられた時はどれほどあったか。彼らと居る時にその割合が高かったのは間違いないが、それでもやはり形ばかりの笑みでは願かけも届かなかったのかと悔いがぽつんと胸に広がる。)ダメダメだよー、気にならないように繕うのばっかり上手くなって。そうかな…皆が気持ち良く過ごせるのが一番だと思ってたんだけど、そういう気負いみたいなのが伝わって、逆に気を遣わせてたら申し訳ないや。(自身が上に立つ者の器でないとは審神者を始めた時から分りきっていて、その器に見合うように必死で笑ってしがみついていたのかもしれないと、彼の言葉で初めて思い至って眉を下げた。)いや、うん……。強引に曲げさせたいわけじゃないけど…でも、譲歩してくれると助かるかな…。(煮え切らぬ言葉は平素の優柔不断に戻ったような淡い笑みと共に。あやすような手つきは優しすぎて、有難いけれど崩れそうな顔を保つのが大変だから少し困る。)それも知ってるけど、たまにうっかりしちゃうところが三日月らしいなって。私も人の事は言えないけどね。(明日も当たり前に続きそうな、他愛のない会話を噛みしめるように。)……ねえ、三日月。とても自分勝手なことを言っちゃうね。こうなるまでにもっとこうしていればよかったって後悔してることは山ほどあるけど、でもね。三日月や皆の主でいられたこと、皆の力でこの本丸の主にしてもらったことは、後悔してないよ。(間違いなく不本意な終わり方だが、此処で過ごした時間も縁により結ばれた出会いも、それらが全て愛おしい事実に変わりはない。そう告げる顔は心から穏やかに笑っていた。)

09/23 16:56*100

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(助けになればと掛けた言葉すら責め句になってしまうのは、ひとえに己の力不足と痛感しつつ、足らずを補うべく口を開く。)いやいや、主の真心は確かに伝わっていた。胸を張ってよいぞ。まあ、過ぎたるは及ばざるが如しということだ。少しばかり肩の力を抜いていても良かったかもしれんな、ははは。(それは主に向けて、そして己への自戒も込めて、されど朗らかに笑い飛ばしてしまおう。)ふむ、譲歩か。さて、どうしたものか。(はぐらかす体でいて、内は真剣に折衷案を模索し始めた。主の望みとあらば応えたいのがこの刀の本性である。これほどまで慎ましい主から自分勝手と聞こえれば、不思議そうに声を漏らした。)うん? ……それは重畳。俺も主の刀でいられたことが一番の誇りだ。皆と、そして主と過ごしたこれまでの日々までは奴らにも奪えまい。(どちらも自然と過去を語る口ぶりになってしまうのは、仕方がないと分かっていても物悲しい。しかし、遡行軍にも思い出は侵されないと勝ち誇ったように言った。人は思い残しがあると彼岸へ渡れないらしいが、その点において主は心配なさそうだと安堵する。)主よ、――どうやらここまでのようだ。(主との語らいを惜しむ呟きを終えた刹那、流れるように両の手を本体へ添えれば抜刀し、横一線に襖を切る。切り口の隙間から向こう側が見えるだろうか、斬撃を受けて倒れていく遡行軍の姿があった。矢面に立った彼らが討ち漏らしたか、横を通り抜けられたか、あるいは――なんにせよ、二の手三の手が迫るのに時間はかかるまい。)主、このまま俺に攫われてはくれまいか。俺なりに譲歩してみた。(主は逃げない、だが三日月宗近はまだ折れてはならない。覚悟は決めたが、諦めるにはまだ余裕がある。それらを自分勝手に考慮した結果、己という不可抗力によって主を敵の手から遠ざけるというものだった。)

09/23 18:10*102

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うん、じゃあ安心して誇っておくよ。…あはは、それは昔から下手だったから…もうちょっと成長したかったな。(ぽつりとした呟きは後悔ほどの重さを持たず、口にしたそばから消えていく軽さで落とされて。)ごめんね、もう考えることが山ほどあるのに、また悩ませちゃって。(けれど困らせているのが分かっても撤回は出来ない頑なさを覗かせて、仄かに眉尻を下げた。)……、ありがとう。その言葉が最高のご褒美だよ。(笑ってはいたけれど、楽しい事ばかりといえるほど甘くもない日々だったが、幸せも苦労も全てひっくるめて、誰にも奪わせないものに違いない。)あ、……。三日月、ごめんね。やっぱり折れないで。折れそうになるまで守らないで。貴方が無事なら、私はどうなっても、平気だから。(共に果てる覚悟は出来ても彼一人だけ折れる姿を見届ける覚悟は出来ないまま、ひどく切羽詰まった情けない声で訴えずにはいられない。)……え。それって、まさか。……いいの、本当に?大変なのは、きっと三日月の方だよ…?(思わぬ提案で驚きに目を瞠るも、問い返す声に怯えは無く、ただ案じる色を宿して。)隠し部屋に入れるだけ、窮屈でも出来るだけ多くの子たちを入れて。帰ってきた子たちを出迎える子、少なくてもいてほしいんだ。私たちが入らなければ、それだけ入れる子も増えるよね。(それもまた自分勝手な論理だと理解した上で、彼に向き直る女の顔から願掛けの笑みは消えていた。)三日月。こんな私でよければ、攫ってほしい。……大丈夫だよ。ぜんぶ私が望んだ事だから。(腹を括った女は、願掛けのためでなく、気づけば無意識に微笑んでいた。)

09/23 23:41*108

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(主の切実な懇願が耳を打ち、己が心に波紋を生む。翻された言葉に主の真なる思いが輪郭を示した。大きく見開いた瞳の中で、小さな三日月が揺れる。どうなっても平気などと滅多なことを言うでない、と諭すべきだったが、知らず口元が弧を描いて心のままに返事をした。)相分かった。(振り切った刀を鞘に納めながら、やおら柔らかく丸みを帯びた瞳で、主を真っ直ぐ見つめる。)楽に遂げられるものなど高が知れる。それに、大変なのは主のほうではないか。どうなっても良いのだろう?(心配は無用と告げつつ、思い出したように先の発言を指摘するが、軽やかに揶揄する風であった。隠し部屋についての提案ないし指示に耳を傾けて、鷹揚に頷く。)ああ、そうだな。道すがら、見かけたものたちに声を掛けるとしよう。はっはっは、とても良い顔をしているな。それでこそ攫い甲斐があるというものだ。(恐らく本物の、主の笑みを認めては大らかに笑った。主の言葉がここ一番で己が背を押す。)主の望みが、俺の望みだ。やはり、主の「大丈夫」はよく効く……。今なら何でもできる気がするな、世辞ではないぞ。(どこか楽し気に言いながら、屈託ない笑みを浮かべる。先んじて前へ進み、痛んだ襖をそっと開けた。幸いに敵の気配はなく、主を肩越しに振り返った。)永い道になるだろう、忘れものはないか? では、どこへなりと行こう。主の傍らに在るうちは、折れずにいると約束する。(主の手を引くことも、細い肩を抱くこともなく、強い意志を覗かせながら目で誘うばかり。主が望むというならば、自らの意思で付いてきてほしいと思ってしまったが故に。――敵を斬り伏せながら、仲間たちに戦線離脱を呼びかけ回っただろうか。本丸の外へと抜け出せたなら、文字通り主を攫って行っただろう。どこかで共に果てるならばそれまで。もしも生き延びたなら、日の出を何度も共に迎えようか。飽くほどに、ずっと。)

09/24 13:31*116

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(揺れ動く心を自分の中で御しきれず溢れ出た感情的な懇願に対してもびくともしない泰然とした返答を受け、途方もない年月を生きる彼の重みを実感するばかり。)ありがとう。(何があろうと撤回はしない、選んだ道を悔やまない。きゅっと引き結んだ唇で月の浮かぶ瞳を見つめ返し、)私は平気だよ。どうなったとしても、三日月がついていてくれるんだから。(ふっと肩をすくめて投げる声も先ほどよりずっと気負いなく軽やかな響きを帯びて。そして己の勝手で託して残していく仲間たちにも、少ないしても出来るだけのものを置いてゆけたらと。)うん…!……え、そうかな?…っふふ、三日月が考えもしなかった提案をしてくれたからだよ。(独りよがりな願掛けより、もっと有効で強力な手段があるのだと気づかせてもらったから。女は吹っ切れたように大らかに笑えた。)有難いけど、これから三日月が自分の望みを見つけてくれるのを、私の望みに加えておこうかな。……うん、分かってるよ。私もそう信じられるから、何度でも言うね。三日月なら、大丈夫だよ。(それはもう不安を紛らわす呪文ではなく、背中を押すための前向きなエールとして。)うん、もう準備は出来たよ。心もね。……それじゃあ、三日月がいつまでも折れないように…私がいつも傍にいるしかないや。ううん、違うね。傍に居なくても折れないぐらい強いって分かってても、私が勝手に傍に居たいだけなんだ。(今度は彼に委ねず、自らの足で歩いて彼の手を取り、二人でどこまでも永い永い道を行こう。できるだけ多くの仲間に戦線離脱と感謝と謝罪を慌ただしく伝えて、そのまま本丸の脱出を目指そう。様々な幸運が味方して脱出が叶い、攫ってもらえたなら――そのときは安堵と嬉しさでぐしゃすぎゃに笑いながら泣き崩れるだろう。そして、何度でも日の出と日の入りを見つめ、悠久の時を重ねよう。)

09/25 22:13*133