(斬っても、斬っても斬っても事態は好転しない。ひたすらに防戦を強いられる一方であった。しかのみならず、打開策を見出せる隙間すらも存在せず。それでも、諦めるものなど此の場に居はしなかった。)身命を賭して戦え!だが無闇やたらに折れるんじゃねえ、ぎりぎりまで生きろよ!(周囲で戦うものへ鼓舞の声を上げ、眼前の敵を切り伏せては蹴飛ばす。今は一振りの戦力すらも惜しい。――運命が音を立ててやって来たのは、逢魔が時。手薄になった本丸を狙い定めていたかの如く、ろくな迎撃体勢も敷けぬまま戦闘へとなだれ込んでいった。常ならば背を預けられる刀達は不在。今本丸にいるのは僅かな経験のみの刀ばかりで、練度の高いものは己を含めて三振り。その内の一振りには主への伝達と護衛を頼み、残り二振りで前線を食い止めている状況であった。髪紐が切られ、背に落ちた黒髪が一陣の風に揺れる。それと同じくして、遠くから聞こえた声は先に主の元へ向かわせた一振りよりの報せ。)……はぁッ!?マジかよ……こんな時にどこ行ったってんだよ……ッ(曰く、執務室はもぬけの殻で近場も探したが見当たらないのだと。湧き出るかの如く次々に向かってくる敵群を斬って、壊して、ほんの僅かな空白が生じた際に。)オレが探す!ワリィがあんたはこっちを頼む!(機動は此方の方がいくらか高い。ゆえに役目を交代するよう提案したならば異議など飛ぶはずも無い。戦線離脱をする間際、「勝つぞ!」と“和泉守兼定”を天へと掲げて檄を飛ばした。それでも、また会おうとは口にしないのは、いくさというものを充分に理解しているがゆえだった。臨戦体勢は崩さぬまま、足早に本丸の中へと駆け出していく。息は上がらない。驚く程に頭が冷えている。)おい!主!てめぇどこにいやがる!(本丸中に響き渡るような大声を上げながら、走る。間もなく回廊が見えてこようという場にて。)
09/17 17:20*14
(逢魔が時は大きな災禍を蒙る刻、ゆえの大禍時であるのだと。幼少の砌にうんざりするほど気を付けなさいと祖母より言い聞かされた戒めが、よもや身に沁みる日が来るとは思いもしなかった。)な、 (先ずは手に取ろうとした湯呑みに亀裂が走り、次いでバリンとなにかが音を立てて破られる感覚が脳裡を奔った。いいや、なにかではない。その意味を理解した瞬間、サッと血の気が引いていくのが解った。)……嘘だろ。(思わず立ち上がり、障子の向こうを見つめて漠然と呟く。執務室の隅に陣取って居た近侍も異変を感じ取ったのであろう、瞬時に内番服より戦闘服へと着替え「此処で待っていろ、様子を見てくる」と告げるや否や刀を手にして執務室を出て行ってしまった。)大典太! 勝手に行くんじゃっ――ああ、くそ……ッ!(普段は引き籠りのくせして何故こういう時に限っては外へ出て行ってしまうのか。短く悪態をついては政府に連絡を取るべく端末を開くも一向に繋がる気配はなく。待っていろと釘を刺されはしたものの、遠くに剣戟の音を聞けば居ても立っても居られずに、数枚の呪符を懐に忍ばせてから執務室を飛び出した。)おい、こんのすけ!! あんの管狐、どうしてこういう時に限っていないんだ……ッ!(いつもは呼ばずとも現れる管狐も呼び掛けたところで応答は無い。苛立ちを隠すことなく、今は最善を取るべく足を動かした。其処彼処より聞こえる剣戟の音。見たことも無いほど禍々しく濁り果てた空の色。何が起こっているのかなど、執務室より一歩外へと出れば一目瞭然だった。)っ、和泉守か……!(そんな折。聞き慣れた刀が己を呼ばう声を聞けば、急いで声の方角へと足を向かわせる。軈て浅葱色の羽織が見えたなら漸く歩みを止めるのだ。)こんのすけを見てっ……いや、なにがどうなっている! まずは状況を簡潔に教えろ!(幸いなことに未だ遡行軍に出くわしていない。荒い息を整えながら捲し立てた。)
09/17 20:24*17
(風を切る音の中で、微かに届いた声を聞き逃しはしなかった。進行方向はそのまま、走る速度を僅かゆるめたのは存外に近いと悟ったがゆえに。回廊の先に細長いシルエットを捉える。此方へ向かうその姿を見とめたならば、距離が詰まるのに然程時間は掛からなかっただろう。)ったく、探したじゃねーか……ンな時に一人で出歩くんじゃねえよ!(五体満足、無傷の状態を確認すればこそ、そんな憎まれ口も飛び出よう。平素であれば乱れた呼吸が整うのを待ってやるが、今はそんな時間的余裕はない。状況を求める主へ、一拍の間を置いて口を開く。)あんたももう察しているだろうが、結界が破られた。侵入してきた敵は多数、門前で各々迎撃しているがその速度を上回って増え続けている。こちらは圧倒的不利な状況だ。(まっすぐとその瞳を見据え、淡々と淀みなく現状を読み上げる。その語り口や表情は、軽口を叩き合う間柄にはない臣の其れ。一度唇を閉じたのなら、殊更にゆっくりと、瞬きをひとつ。後方からの刃を交える音を背負いながら、一瞥をくれたのは回廊の奥の方。)言いたかねぇが、援軍でもない限り、そう遠くないうちに前線は突破される。だからあんたは出来るだけ奥で控えてろ。っつーかオレが今つれてく。(既に決定事項であるとでも言わんばかりに、続けざまに言葉を重ねる。いつもの如く反論や悪態が飛び出ようが、取り合うつもりはない。しかしもし、彼自身のまことの意思があるのならば、耳を傾けるやもしれぬが。ふ、とひとつ息を吐いたのち、肩上に指を差し込み持ち上げて、胸板を外す。そのまま主へとかけてやろう。次いで、風に揺れる白い布をほどき、鉢金も額から離しては、眼前へと差し出した。)ほら、つけとけ。無いよりはマシだろ。運が良けりゃ流れ矢くらいは防げる。(そう伝う声音に急くような響きはないが、早いに越したことはない。装着に手間取るようならば手を貸すつもりでいる。)
09/18 01:46*27
(尤もたる言葉にぐっと言葉を詰まらせてたじろいだのも数舜、キッと眉を吊り上げては憎まれ口を叩き返すべく口を開いていた。)お前らこそ僕をひとりにするなよ! 大典太が出て行った時は流石に肝が冷えたぞ!(執務室を飛び出した理由は幾つかある。その内のひとつが近侍に据えていた太刀の練度の浅さであった。乱雑に頭を掻き、己の問いに対して答える彼の双眸を真正面から受け止める。ある程度事情を察することは出来てはいたが、間に流れる空気の鋭さに事態の重さを痛感しては眉をひそめて双眸を伏せた。)……重傷の者を運び出す余裕は、あるのか。(いつ前戦が突破されても可笑しくない状況であることは承知の上で、慎重に言葉を絞り出す。眼前の彼を含め練度が高い者は計三振り。いずれも頼りになる刀とはいえ多勢に無勢、戦力は圧倒的に此方が劣っているといってもいい。こと戦場に於いて彼の言葉ほど信の置けるものもなく、有無を言わせぬ物言いに唇を噛む。当然の判断だと頭では理解しているけれど。)ふざけるな! この僕に、ただ引き籠もっていろと言うのか……!(込み上げる震えをぐっと拳の中に閉じ込める。専門学校にて学んだ知識はあれど所詮は人間。彼らのように遡行軍を滅する程の力は無く、率先して狙われる身である以上足手纏いであることも理解した上で愚かに吠えた。身を隠すように、或いは守るように与えられる装備も、眼前に差し出された鉢金もふんと鼻を鳴らしながら引ったくるように受け取ったものの、けれど大人しくしているのはそれまでだ。少し上にある浅葱色の双眸を睨むように見据えては、)和泉守、僕を護衛しろ! 増援がいるんだろ。鳩小屋まで無事に僕を連れて行け、出撃部隊と遠征部隊に鳩を飛ばすぞ。政府と連絡が取れない以上、奴らの帰還を頼るしかないからな。いいな、わかったな、話しはそれからだ!(口の端を上げて笑う。有無を言わせぬ物言いで得意の虚勢を張った。)
09/18 14:31*32
(言葉の応酬こそ、まるで昨日までと変わらぬやり取りだった。しかし、時は今、危急存亡の秋を迎えている。回廊までは未だ敵が踏み入っていない為に荒れた様子はないが、ひりつく空気も色の悪い空も、日常から外れたことを示していた。主らしい問い掛けには、僅かに顔を顰める。かつて同じ時代に活躍した脇差や打刀らほど、非情には徹しきれない性質がそうさせる。)……ない。負傷者を抱えれば恰好の的だ。そもそも搬送に割ける頭数もねぇ。動けないやつは、……そこまでってことになる。(直接的な表現を避けたのは、慎重すぎるくらい慎重に、刀剣男士を大切にしてきた日々を知っているからだ。それでも、残酷な事実がやわらぎはしない。ただ、選ばなければならない。人の身に腕は二本しかない。持てるものは限られる。ならば、と皆が総意で選ぶのは他ならぬ主ただ一人。主が生き延びてさえくれれば――誰もがそう願う中、それを善しとせぬ彼の噛み付きぶりには音を立てず息を吐いた。反応が予想できていたのもある。たとえどんな抗議の言葉にも、今は耳を貸すつもりはなかった、が。)……なんだ。まだそんな顔が出来るんじゃねーか。(耳にした命は、存外に理に適ったもの。冷静さを欠いた指示や、死地に赴くような無謀を提案されたのならば一蹴してやるつもりだったが――気丈にも口角を上げる彼を目にしては、片眉を上げて笑った。伸ばした左手は、止められなければその髪を掻き回しただろう。呼び戻し鳩は彼にしか扱えない、ならばそうする他に打つ手は無い。となれば、納得するは早く。)よっし、それならさっさと行こうぜ。オレから離れるんじゃねーぞ。(血振りをしたのち、鳩小屋の方角へと視線を投げる。門からは離れた位置にある其処ならばまだ敵は侵入していない筈だ。ゆえに護るは彼の後方。万が一、前方に異変があれば即座に対応出来るような距離を歩くだろう。鋭い眼光は、常に周囲を窺い続ける。)
09/18 22:54*38
……、……そうか。(真実を口にさせるという残酷を強いたにも関わらず、言葉を選んでくれた彼の心遣いに背を押されては伏せていた双眸をゆるやかに持ち上げる。僅かな沈黙ののち、ふっと張り詰めた空気を抜くように押し出した一言は存外軽かった。解りきったことだった、その上で解っていたことを彼の刀に言わせたのは己の甘えに他ならない。最悪の事態にならぬよう日々注意を払ってはきたけれど、彼らを戦場に送り出している身の上で覚悟が出来ていないなどと宣える筈もなかった。)当たり前だ、僕を誰だと思っている。(ふふん、と不敵に笑った顔も髪を掻き回されれば「子ども扱いするんじゃない!」と忽ち苦くなるものの、噛み付きこそすれども振り払いはしない。彼が見据えた先を追うように見遣り、彼が普段そうしているように鉢金を額へと結んだ。)言われなくたって離れるもんか、こんなんじゃ流れ矢だって防げないからな。(己を守る防備を見下ろして叩く不遜な口吻は健在。それというのも彼という頼れる刀が傍に居てくれるお陰だった。彼が後方を守護するのであれば後ろの心配は無く、己はただ前のみに警戒を払えばいいだけだ。)……なあ、和泉守。(進む足取りは慎重に、さりとて悠長に歩いてもいられぬゆえに急ぎ足で。此処ら一帯は未だ静かであるゆえに、抑えた声でも後ろに居る彼には聞こえたであろう。後ろは振り返らぬまま、真っ直ぐと前だけを見据えて静かに言葉を零してゆく。)言っておくがこの戦、僕は負ける気はないぞ。例え演練であったって、僕が負けるのが大嫌いだってことはお前たちもよく知ってるだろ。(なにせ見栄を張る為だけに演錬にレア太刀を連れて行くような厭味ったらしい審神者なのだ。どう勝つかだなんて聞いてくれるな。此れより急を報せる鳩を飛ばしに行くように、今はただ勝つ為に出来る最善の手を思いついた限り試すのみ。鳩小屋まで間もなく、未だ敵の気配は無い。)
09/19 01:48*39
(仲間を失う、という経験は、少なくとも己が顕現して以降はなかったと記憶している。慣れてしまっていれば幾らかラクだったのだろうか。強張りの残る様子であれいつも通りの振る舞いをする主を見て双眸を細めた。)ほー?誰なんだ、教えてくれよ。(自信満々に言い切るさまに、思わず揶揄の言葉が口をつく。意地の悪い笑みを浮かべながらも、払われないのを良いことに常に整えられている髪を乱してやった。前髪が額におりるとやや幼い印象を受ける。抗議の声には、笑って流してしまうことでやり過ごした。彼から手を離し、胸板を取った際にゆるんだ和服の合わせを整える。)デカいやつらは足止めできてるだろうが、あの身軽な短刀はすり抜けて侵入してる可能性がある。警戒を怠るなよ。(防具の装着を待ち、準備が整ったのなら「似合わねぇな」なんて軽口を叩くのは今世の主の影響としてしまおう。そうして、彼の後ろを歩み出す。)……なんだ?(呼び声には、不安を煽らないよう間を置かず応じる。偵察能力はそう高くないがゆえに限度はあるが、それでも先手を打てるに越したことはない。気配を探るよう感覚は研ぎ澄ませながら、)ンなのはあんたの顔を見りゃわかる。その言葉、前線で戦ってる連中に聞かせてやりてえもんだ。(士気の高さは好ましく、ふと呼気に笑みを溶かした。大将の一声というのは何にも勝る原動力だ。彼の目が届かぬ位置で、寂しげに笑む。)……オレたちだって、負けるつもりで戦ってるやつなんざいねぇよ。ただ、失うモンの覚悟もしなきゃならねぇ。これはそういう戦だ。(最善を模索するのが主であれば、最悪を想定するのは此方の役目。ゆえに、耳に触りの好い言葉ばかりを掛けてはやれない。それもまた、勝ちを諦めぬ証左でもあった。幸い、敵との遭遇はなく鳩小屋に到着を果たした。小屋にも被害は見られない。彼が準備をする間、その姿を隠すような位置に控え、敵の出現に備える。)
09/19 14:26*47
(どの刀に対しても尊大な態度は変わらぬものの、斯様に軽口の応酬が出来る刀など彼以外にはそうはいまい。前髪を下ろすと威厳が無くなるようでどうにも落ち着かず、小さく悪態をついては乱れた髪を整えるように後ろへ撫でつけた。)お前たちをすり抜けて侵入するほど機動が高いってことなら、僕に勝ち目はないんだが……?(機動に関しては本丸最遅を誇る石切丸より劣る自覚がある。「こんな物騒なもの僕に似合う筈ないだろ」なんて軽口を叩き、出発早々ゾッとさせられる言葉に臆しそうになる足を虚勢でもって突き動かす。今は軽口を言い合う状況ではないと理解していながら、男が普段通りに在ろうとするのは此処に立ち続ける為に他ならない。恐怖が顔を出す前に、己を奮い立たせるように言葉を紡ぐ。)……僕も審神者だ、誰かを喪うかもしれない覚悟はしていたさ。ずっと前からな。だがな、僕ひとりだけでも生かせばそれで勝ちだなんて思うなよ。勝つってのは敵の予想を超えて一振りでも多く生き残ることだ。で、その上で僕を守りきってせみろ。(我ながら無茶苦茶で、身勝手な言葉だと思う。そうこうしている間に小屋へ着けば、彼が警戒してくれている間に準備を進めた。一筆をしたためる余裕など無いから鳩の足には何も括らない。彼らならば異変を察してくれるであろうと信じていた。)……よし、行って来い!(希望を託した四羽の鳩を空へと放つ。外部より遮断された状態で無事に辿り着く保証はないけれど、其の姿が小さくなるまで見届けてからくるりと彼を振り返り、)僕たちも――おわッ!!?(一歩を踏み出した瞬間、銀杏の葉に足を取られて盛大に後ろにスっ転んだ。)くそっ、誰か鳩小屋の掃除当番をサボりやがったな……!(掃除を言い渡したのはさて誰だったか。服に付いた銀杏を払いながら起き上がろうと試みる最中、少し離れた藪の中からこちらを狙う矢が在ろうなどとは夢にも思っちゃいなかった。)
09/19 18:50*51
(平素であれば、斯くな覚悟を知ることもなかっただろう。己がよく知る彼らしさと、らしくなく感じられる強さと。どちらも一度飲み込んでから、ゆるりと唇を開く。)……正直オレは、あんたはもっと甘い、臆病なやつだと思ってたぜ。まあ、慎重な主の元で育ったオレたちだ。死に急ぐようなやつはいないだろ。あんたが一人残されて、生き延びられるとは思えねぇしな。(軽やかな声は、失礼な事まで率直に。されど本心であることは何よりわかりやすかろう。折れない、とは誓えないが、それでも最後の一瞬まで彼の刀であらんと足掻く気ではいる。それは己だけでなく、此の本丸の刀たちの総意と云って良い。今まさに戦い続けるものたちの代弁も担いながら、託された主の守護を全うせんと集中は切らさないように。鳩の飛び立つ音を聞いたならば、視点の動きは変えぬまま目的達成を把握する。警戒を解かぬまま――でいたのだが、)オイオイ、びっくりさせんなよ。おら、とっとと立て――……、(鈍い音が聞こえたと同時、弾かれるように其方を見た。尻餅をつく主の姿に一瞬肝を冷やしたが、状況を把握すれば呆れたように顔を顰める。すぐさま近寄り、起立を促すよう左の手を差し伸べようとした――その瞬間、側面から迫りくる気配に刀を握り直した。咄嗟に彼を庇う形で前に立ち、刃を立てて飛んでくる矢を防ぐ。其の存在を悟るや否や、息つく暇もなく彼の襟首を引っ掴んでは鳩小屋の陰へと投げ飛ばした。)そこから絶対出くるなよ!(振り返りもせず声だけを掛け、藪へと一目散に駆けていく。見える影は二体、飛んできた第二の矢が腕を掠めるが、怯むことなく刃を振りかざす。一撃で破壊できたことから手間取りはしなかったが。)……くそ。前線も限界か。(険しい表情で、忌々しげに独り言を吐き出した。気を落ち着けるよう一度息を吐いては、「おい、もう出てきていいぜ」と呼び掛けながら彼の方へと歩いて行く。)
09/19 23:08*58
よくわかっているじゃないか。その通りだ、僕はお前たちが居なければ生きられない。だから僕だけが生き延びるだなんて、そんなことは不可能なんだよ。……この世には未練しかないからな、万が一にも僕が死んだら本丸の奴ら全員祟ってやるからそのつもりでいろよ。(彼らの想いは理解しているつもりだ。斯様な状況で折れるななど言えぬものの、直接ではなく遠回しに、冗談めかして告げた脅しに祈りを籠める。単なる軽口として流してくれれば僥倖だった。)文句を言いたいのは僕の――(それに気付いたのは彼が己を庇うように背を向けてからのことだった。刀が軽いなにかを弾く音を耳で拾い、漸く狙われていたのだと理解をしたその瞬間、)ぐえッ(ぐんっと襟首を引っ掴まれれば潰れた蛙のような声もまろび出る。文句を言う暇もなく投げ飛ばされ、受け身を取る間もなく無様に地面に転がった。)い、和泉守……ッ。(言われなくても出ていけるような状態ではなかった。よろよろと身を起こす頃には彼から良しの合図が届き、銀杏の葉っぱをくっつけたままふらりと鳩小屋の陰から顔を出す。)今度放り投げる時はせめて一言掛けてからにしろ! すごく痛かったぞ!(彼に庇ってもらえなければ痛いだけでは済まなかったのだが、此処で素直に謝辞を紡げたならばこんなに性格が曲がることもなかっただろう。じろりと眼差しを向け、掠めたような痕に気付いたなら「……具合は」と静かに問うのが精一杯。幸いなことにまだ誰とも霊力は途切れてはいないとはいえ、この状況ではそれも時間の問題であろうと悟るが早く、)和泉守、次は丑寅の方角だ。急いで鬼門に向かうぞ。これ以上敵の数が増える前に、鬼門の穢れを断って結界を張り直す。(やれることは全てやると決めた。真っ直ぐと彼を見据え、有無を言わせぬ指示を出すのはこれで二度目。「庭の、柊が植えてある場所だ。前に今剣が服を引っ掛けただろ」と場所の補足も忘れずに。)
09/20 09:51*63
へいへい、わーってるって。ほんッと、あんたはオレたちが大好きだよなあ。(肩を竦めながら、神経を逆撫でするようなことを敢えて大仰な口ぶりで。何故なら、覚悟を決めたと言った矢先に、だ。重ねて共に在るよう念押しされては、如何な刀剣であれこう解釈もしよう。傲岸不遜な物言いで、自身を嘲るようなことを易々と口にする。不器用で生き辛い今世の主は、中々どうして可笑しいやつだ。――危機に瀕して尚、第一声が文句であるところなんて特に。)おお、そいつは悪かったな。まあ無事だったんだからいいだろ。(後頭部の辺りを軽く掻きながら、平然とした調子で返答する。大雑把な性質は神経質とも思える主とは正反対だが、水と油というわけではない。「かすり傷だ、どうってことねぇ」と傷には一瞥もくれず笑ってみせた。やや乱れた髪をかき上げては整えながら、次なる命令には静かに耳を傾ける。今更止める理由もないが――徐々に眉を顰めたのは、)……おッま、銀杏くせえ……(転倒の際か、或いは投げ飛ばした際か。実が潰れたのかもしれない。風下にいる影響か、独特な香りを前にあからさまに鼻の辺りを覆った。すぐさま匂いが霧散するでもなし。数秒、考えた末。浅葱の羽織りを脱いでは、み度彼へと譲り渡そうと。)じき消えるだろうが、匂いで居所がバレちゃたまったもんじゃねえ。貸してやるからとりあえず羽織っとけ。多少誤魔化せんだろ。(匂いが空気に溶け出るのを抑えられる上、主らしからぬ格好で敵の意識を逸らせたなら上出来。その意図も言い含めて、羽織りを預けた。そうして、彼が言う方角へと歩み出す。空は禍々しい模様の色を落とし――“夜”が近付いていた。)急ぐぞ。(告げた声は鋭さを伴う。前線の要たる刀は一期一振と鶯丸。其の時を迎えれば更に不利を被るは必至となる。今一度柄を握り、睨め付ける先に敵の姿はない。けれど、漂う不穏な気配から彼の前方を歩み、備える事とした。)
09/21 00:10*70
なッ(この男に煽り耐性というものは無い。的確に図星を突かれれば尚更、揶揄われていると解っていても直ぐに挑発に乗ってしまうのが常だった。)っ……お前たちが僕を大好きなんだろ!(勢いで押し出したものとはいえ、我ながらなんとも自意識過剰な言葉を吐いたものだ。込み上げるものを誤魔化すようにふんっと鼻を鳴らしては視線を逸らす男の内心は色んな意味で穏やかではなかったが、彼の行動に文句を垂れながらも本当は感謝をしているように嫌な気持ちは無い。当然ながらちぃとも悪びれない声を聞けば反射的に眉根を寄せてしまうものの、大事ないと知れば「そうか」と彼の笑顔に強張った表情も解けていたのだが、)だ・れ・の・せ・い・だ!(好きでこうなった訳ではないと、わざわざ一字一句を区切って強調した文句は相変わらず理不尽極まりないものだ。とはいえ不快な臭いであることは事実で、どうしたものかと考えた矢先に眼前に突き出された羽織りを見遣れば驚いたように双眸を瞠った。)だがお前、これは……。(浅葱のだんだらに籠められた想いを知るからこそ一瞬躊躇もしたが、意図を知れば二の句を唱えることなく受け取って羽織りを纏おう。見上げた空は宵へと傾き、より暗く禍々しさを増している。本丸に残る練度の高い刀はいずれも夜戦には不利な刀種なれば急く声に頷いたのち遅れを取らぬよう足を進めていた最中。)……、……っ。(――歩みが止まる。)秋田、平野……。(かそけき声がひとつ、ふたつ、なんの前兆もなく消えるのと同時に、霊力の繋がりがするりと解けてゆくのが解った。感覚として短刀二振りとの繋がりが断たれたのはそう遠い場所ではない。震えを拳に変えて、鋭く己の刀の名を呼んだ。)和泉守! 来るぞ!!!(禍々しきが音を立てて迫ってくる。気配は回廊の奥、曲がり角、否――)上だッ!!
09/21 13:18*76
(苦しげながら、その反撃の方向性がやや意外だったので軽く瞬いた。のちに、)自覚があるなら結構。(なんて偉ぶるような口調。ふ、とやわく双眸を細めるさまは、修行へ赴く前には持ち得なかった余裕。好意を隠さぬのは、自信を持つものの特権だ。――さりとて、本質というのはそう変わりはせぬもので。)はァ!?元はと言やあんたが派手にすっ転んだせいだろーが!(責任転嫁を甘んじて受け止める程の器には非ず。主相手に楯突くなど武士にあるまじき、助手を名乗る脇差が居たのならば諌められもしただろうが、今は生憎と不在。――ふいに過ぎるは刀剣男士としてかつての仲間と過ごした日々。託した浅葱は、彼らと、そしてこの世と和泉守兼定を繋ぐひとつと云っていい。幕末では不評であった其れも、のちの世では、)粋だろ?落とすんじゃねーぞ。(新撰組の代名詞とも云える知名度となり、人気であると知っているがゆえに。軽快に言い添えては、歩み出した。勝手知ったる本丸だが、初めて訪れる戦場のような緊張感が付き纏う。淀む空気に一層意識を集中させるなか、)……主、(ひたと止まった足音に気付くと、すぐに此方も立ち止まる。半身で振り返り――その様子を見れば、嫌でも察する事が出来た。痛ましげに眉をしかめ、ぐっと柄を握り締める。使命を果たしたものの為にも、立ち止まってはいられぬ、と。そう声を掛けるより早く、響くは主の声。)チッ……!下がってろ!(背後の彼を押し退けるように前へ出ては、頭上より降りかかる厄災目掛けて刀を振るう。一閃が空を走り、不気味な炎を灯す其れは朽ちてゆく。しかし、敵の気配は薄れるどころか――)まずいな。……前線が決壊した可能性が高い。(防衛線は均一でこそ意味を為す。ひとつでも綻びが生じれば崩れるのは一瞬だ。本丸は既に敵の侵入を許している。現状を鑑みた、その上で)鬼門に向かうのは無理だ、諦めろ。(はっきりと、彼の瞳を見て告げる。)
09/21 20:47*79
(鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、まさに男がしているような面を指すのだろう。予想外とも言える返しに今度こそ二の句を紡げず、横目にやわく細まる双眸をみとめてしまえば尚のことグッと押し黙るより他になく。)それだけでこんな銀杏臭くなるか! お前が投げ飛ばした先にいっぱい落ちてたんだよっ!(これでは水掛け論もいいところだろう。斯様に幼稚な言い合いは彼が修行に出る前こそ多かったように思うが、極めて戻った彼とは随分と久しい遣り取りだ。とはいえ埒が明かない話題であることは事実ゆえ、互いに睨み合う程度で手打ちとしたいところ。落とすなとの言葉を受ければ今一度託された誠を握り、己の為すべきことをする為に歩みはひたすら前へ、前へと。例え大切な刀が折れようとも、覚悟はしていると彼に啖呵を切った以上茫然と立ち尽くすことは許されない。万が一に備えて懐の呪符へと手を掛ける頃には、彼の一閃が敵を薙ぎ払っていた。)前線を守っているのは、一期一振と鶯丸か。(現状、本丸で残っている練度の高い刀は彼を外すとその二振りのみ、後は修行へと赴くに満たない者ばかりだ。本丸はとっくに戦場と化している。この短い間に二度も時間遡行軍と交戦している状況を鑑みても、譬え無事に鬼門に辿り着けたとしても遮蔽のない庭では敵に囲まれるのが関の山だ。真っ直ぐとこちらを向く彼の双眸が、どうしようもない現実を告げている。しかし――しかし、)それじゃあ結界が張りなおせない! 時間遡行軍がますます増える一方になるんだぞ! このままだと遠征から戻った奴らだって……ッ、(一歩を踏み出し、縋るように彼の胸倉を掴むべく手を伸ばした。解っている。解っているのだ。彼が己の我儘に付き合い、此処まで譲歩してくれたことも。これ以上進めば彼も自分も無事では済まぬだろうことも。それでも、)僕は……、このまま何もしないで居るだなんて、いやだ……っ!(情けなく声が震えた。)
09/21 23:29*84
(伸びてくる手を避けるでもなく、まして払い落とす事もない。微動だにせぬまま、ただ押し黙って視点を落とした。遠くに響く喧騒の中、切たる意志が耳に触れる。其の音の震えだけが、いやに残響するようだった。暫しの静寂の末)――だったら、(徐に唇を開いては、閉じる。重い瞬きをひとつ挟んで、ゆっくりと瞼を上げた。浅葱が、同じ色を纏う一人を映す。)だったら、どうする。刀も振れねえやつが、一か八かで死地に飛び込むなんざ自害と大差ねえ。(平生よりも低い声色は、咎める意を隠さない。半歩、此方からも踏み込んで。衣の合わせを握る手を押し返すように掴む。)あんたがこの世に生き飽きて、この本丸ごと心中したいってんなら止めはしねえ。主が死ねば、オレ達はその時点で全員しまいだ。……だがな、そうじゃねえなら聞けない話だ。みすみす頭を危険に晒すような真似、許せるはずねえだろう。(彼は幕末の志士ではない、審神者である。共に戦う事は出来ずとも、数多の刀を使役する事が出来る。なればこそ求むるは総大将の如き其れで。)あんたが生き長らえて、オレらを戦わせてくれよ。……生きたいなら、みっともなくても生きりゃいい。(彼の覚悟の程を見縊っているわけではない。だが、“未練ばかり”と語った先の会話を覚えているがゆえの言葉だった。――尤も、これはあくまで刀剣男士としての望みに過ぎぬ。一拍、二拍。沈黙を差し挟んだのならば再び口を開いて。)それでも。難しい事全部取っ払った上でどうしても、生きることも足掻くことも諦められないってんなら……今度こそ覚悟を決めろ。オレに、『折れるまで戦え』と命じろ。そうしたら、どうにかしてやる。(まっすぐと見据える浅葱は鋭い気炎を宿す。身を引く勇気か、飛び込む決意か。選ぶのは彼自身。掴んだ手を離しては、踏み出した半歩を引く。)今ここで決めろ、正桔。(主へではなく、一人の男へ。唯一の名を紡ぎ、毅然と問うた。)
09/23 01:57*92
(審神者として判断を見誤っているのは己の方だ。覚悟は疾うに決まってるという言葉にだって嘘はない、けれど。)…………いやだ。(衣の合わせを掴んだままの手が、更に衣をぎゅうと握り込む。声に限らず身体まで情けなく震えてしまっているが、もう構うものか。)帰って来る連中を路頭に迷わせるわけにはいかないし、みっともなくったって僕が生きていることが重要なんだってことくらいわかっているさ、わかってるんだよっ……僕は生きたい。生きていたい、死にたくなんかない、生きたいに決まってるだろっ、でも……でもッ(諦めきれぬと顔をあげた刹那、遂に此れまで堪えてきたものが決壊した。)だからってお前にッ、この僕がお前に『折れるまで戦え』だなんて言えるわけがないだろ莫迦ッ! 折れるなッ!! 折れるなよ!! 絶対、ぜったいに折れることは赦さない……っ! どんな怪我でも僕が必ず治してやるから、だから折れるな和泉守兼定ッ!!! 折れずになんとかしろ! 『最後まで生きて戦え』!! そしたら僕は死なないっ!! 譬え首だけになったって生きててやる、絶対に!(頬を生温かく濡らすものに気付いても、一度決壊してしまったものはそう簡単には止められない。みっともなくぼろぼろと涙を零しながら敢えて避け続けた言葉を臆することなく口にして、気P宿す浅葱と対峙する。生きることも、今此処に居る刀たちを生かすことも諦めてたまるものか。大の男が、それも彼らの主たる審神者が嗚咽混じりに喚き立てるなどみっともないったらないけれど、それこそが諦めの悪い男が弱いながらに理不尽な運命に爪を立てんとしている姿であった。彼から手を離す間際、その懐へと霊力を籠めた呪符を数枚強引に突っ込んでからグッと乱暴に目許を拭った。)今本丸に残っている連中を、僕の思業式神を用いて庭まで集めさせる。どれだけ来てくれるかはわからないが、……散り散りに戦うよりはずっといいだろ。
09/23 13:45*98
(慟哭にも似た叫びが、鉄錆の匂いが漂う通路に響き渡る。それこそが彼の望みであり、願いであり、祈りであるのだろう。――嗚呼、まったく。勝手なことを言ってくれる。意志の強さで死を回避出来るのなら、この世に敗者など生まれる筈もない。“だが、それでも”。他ならぬ今世の主がそう宣うのならば、受け止め、叶えるのが己たちの使命なのだろう。は、と持ち上げた口角は、降参だと言わんばかりに。瞑目を挟み、深く息を吐いた。)バカはどっちだ。ンなことが出来るならとっくにやってるっつーの。(呆れ混じりに、いつもの軽い口ぶりで愚痴めいた言葉を吐く。それくらいは許してほしいものだ、何せこれよりは無謀を突き進まねばならぬのだから。支離滅裂で、無責任で、何をも選べない弱っちい命令をくだすくせ。生を渇望する泣き濡れた瞳こそ、人だけが持ちうる強さを宿しているようだった。かつての主にも感じた気高さを、まるで対極的な今世の主に抱くことになろうとは。再び持ち上げた腕が、彼の髪をくしゃりと撫でた。男の涙を拭ってやる手は持ち合わせていないがゆえ、)泣いてんじゃねえよ、ダセェ。(なんて、己の直情的な面を棚に上げて笑い飛ばす。やがて懐に差し入れられた呪符を一瞥しては、落ちてしまわぬように整えながら。)……しゃーねえから付き合ってやるよ。集めるのは賛成だが、それなりでも戦える短刀はある程度散らしておいた方がいいだろう。これからに備えてな。(刻一刻と迫る夜。彼の式神が届き、その上で移動出来る余力を持った刀は何振り居ただろうか。立ち塞がる敵を斬り捨て、時には蹴り飛ばし。負傷は避けられぬが、庭へと辿り着く事は叶った。――其処には、幸いにして戦力たり得る一振りの姿がある。)一期一振!戦況はどうなってる。(主を連れ、伝えられた本丸の被害甚大ぶり表情を引き締める。「わかった」と伝えるさなか、其の太刀へ主を託すような立ち回りを見せたのは、)
09/23 17:20*101
(言いたいことは全て吐き出してしまったので、返される正論にはもうぐうの音だって出やしなかった。常は跳ね除ける叱言だって甘んじて受け容れよう。命令は無謀で、無茶苦茶で、支離滅裂で、とても一本丸を預かる審神者の言葉ではないと自覚はしている。政府にこの現場を見られようものならこの本丸の評価は大きく下がったに違いないが、それでも構うものかと思った。呆れながらも未だついてきてくれる者が居るのだから、みっともなくたって足掻いてやる。さんざ泣き喚いたお陰か心に圧し掛かっていた息苦しさは幾分かまともになったけれど、頭に圧し掛かるぬくもりが全てを拭っていくようだった。)……うるさい。泣いてない。(考える前に言葉が口を衝いている状態ゆえに、いつも以上に稚気た言葉ばかりが落ちてゆく。すんと鼻を啜りながらでは説得力に欠けるものの、その双眸からもう涙が零れ落ちることないだろう。すぅ、と一度深く呼吸をして、桔梗色の双眸を前へと向けた。)ああ。わかってる、……これからは夜戦になるからな。(彼の言葉に頷いては創り出した鼠型の式神を回廊へ放ち、彼の後に続いて先を急ぐ。辿り着いた庭先は予想通りの荒れ具合で、呪具でも持ち込まれたのか鬼門封じの柊に至っては腐り果て、空気は酷く穢れていた。新たな一振りの姿を確認出来れば安堵しつつ、改めて知らされた本丸の被害の大きさに唇を噛む場面こそあったものの、今は己の仕事を為すべく彼らが脅威を退けてくれている間に穢れへと向き直る。)臨める兵、闘う者、皆陣列べて前に在り……(穢れへと呪符を貼り、ぶつぶつと九字を切る最中。ふと背後でなされている遣り取りや動きに意識が向いてしまったものだから、)和泉守、一期、……なにを話しているんだ。(鬼門の穢れを攘災し、結界を再構築せんと持ち得る霊力を折り上げながら、肩越しに振り返っては浅葱色をじっと見つめた。)
09/23 20:01*104
(少し、顔付きが変わっただろうか。虚勢の如き仮面を張り付けていたこれまでよりも、力を統べる者の、覚悟を据えた者の表情をしている。その変化を目の当たりにすれば、刀の冴えもより一層増そうというもの。長き平和の世にて磨かれた、人斬りの術であれ。今は主の道を切り開く為だけに振るわれる。――元より、辿り着くだけならば難しい話ではなかった。厄介なのはこれからだ。結界を張ろうものなら、“此処に審神者がいます”と教えているようなものなのだから。先に到着していた一期一振の献身により、此の場で瘴気を振り撒いていた敵群は凡そ撃退済みであった。打ち洩らしが数体、現状確認の合間に現れる事はあったが脅威にはなり得ない程度。鶯丸の行方は知れないと言う。主との繋がりが絶たれていないのであれば、どこぞに潜んでいる可能性はあるが。破壊にこそ至っていないものの、戦闘不能な刀剣が多いとも。残存兵力は僅かだろうが、それでも一振りで挑もうとしていた先までと比べれば、随分と。)……なにって、作戦会議に決まってんだろ?あんたはそっちに集中しろよ、集中。(強調するように繰り返しては、不躾にも其の頭を上から押してやろう。見かねた一期一振に『和泉守殿』と釘を刺すように呼ばれてはすぐに手を離すのだが。話を再開するのは、彼が顔の向きを戻したあとに。)結界が張り直されたとなれば、敵さんは一気に此処に押し寄せるだろう。こっちの戦力がどのくらい集まるかはわからねえが……頭数が揃ったらオレは陽動に回る。一期一振、主を頼む。(告げる声は改まった語調で。託された太刀は、一度主の方を見たのちに何かを思案するように頷いた。結界が張られるまでの間に、少数ながらも刀剣達が集まってくるだろう。彼が、どの時点で盾となる刀が変わる事に気付くかはわからぬが。もしも問われるようなら、)あんたもその方がいいだろ。(そう、当たり前のように返すのだ。)
09/24 00:47*110
(彼に伝えてはいないものの、庭に至ってから繋がりが解けていく感覚は幾つかあった。練度が浅いものより力尽き、彼らの最期の意志と言葉が霊力をよすがとして通して伝わってくればその度に震えそうになる身体を叱咤して、己が出来る最善を尽くさんと心を奮い立たせる。出来得る限り被害は最小に、最小に。のちに世間に『負け戦』と謳われようとも、全滅を狙って仕掛けてきた敵に対し最善を尽くした上で一振りでも多く生かせたならばそれは紛れも無く勝ちだ。こんな捻くれた男を主と慕い、呆れながらもついて来てくれた彼らに僕がお前たちの審神者だと胸を張って言うことだって赦される、筈だ。この選択が間違いだとは思わない。ゆえに、)……行くのか。(元より彼の性質的に守護一徹とはならぬであろうと思っていたし、強引に頭を戻された折よりなんとなく予感はあった。静かな問いを掛けたのは、ちらほらと庭に刀たちが集まってきてからのことだった。その方がいい、だなんて、こっちの気も知らないでよくそんなことが言えるなと文句を吐き出しそうになったものの、此処で嫌だと異議を唱えることこそ個人の我儘に過ぎない。集まった刀たちから何故無謀に奔ったのだと小言やら譴責を頂戴するあいだ、再び肩越しに浅葱を見据えた。)和泉守、わかってるな。(御守は全て出陣部隊に持たせてしまっている為に渡すことは叶わなかったが、彼には呪符を数枚託してある。言いたいことだって先刻すべて彼へとぶつけてしまったし、彼の刀がこちらが向ける信頼を決して裏切らぬということも知っている。ゆえに掛ける言葉は短く、その一言に十分想いを託したつもりだ。「お前たちもわかってるな、」みなまで言わずとも彼らもきっと解っているだろう。瞑想するように双眸を伏せたのち、男の面は前を向く。己の仕事に徹するように。もう後ろは振り返らぬように。)――勝つぞッ!(腹の底から声を出す。目前の勝利のみを信じて。)
09/24 11:35*115
(本来、主が執務室に留まっていれば護衛をしていたのは一期一振だ。改めて役目を託したのは、戦闘スタイルによる量才録用の面が多くある。それは主も理解しているだろうから、)おー、群がってくる連中を真っ向から迎え撃ってちゃ埒が明かねえ。オレが引っ掻き回してやらぁ。(腕が鳴る、と言わんばかりに愉しげに応えてみせる。如何に優秀な個であれ、数の前には敗れる。かつて新撰組もその手段で誅を下してきたものだ。ゆえに、数を分散させるよう暴れる心算にて。集う刀達は満身創痍であれ、主を見るなり生気を取り戻していく。ここぞとばかりに声を掛けるもの達の傍ら、「よろしいのですか」と問う一期一振に片眉を上げた。)……いいんだよ。こういう時こそ、気に入りのやつが傍にいるべきだろ。(それは皮肉でも、まして自虐めいた調子でもない。声色も表情も、さっぱりとしたものだろう。演練の際、主が決まって侍らせるのは伝統的価値や神秘性の高い太刀だった。己が彼らより劣っているとは微塵も思っちゃいないが、それでも求めるものは人によって異なるもの。ゆえに、そこに文句はない。不満はあるが。再び名を呼ばれた事で、視線は其方を向く。)当然。オレを誰だと思ってやがる。(不遜な物言いは、まるで彼の言葉をなぞるように。主直々に“絶対折れるな”との命を賜ったのだ、違える気などない。自信と確かな意志を携え、主の鬨に沸き立つ味方を背に、幾振りかの短刀と共に散るように飛び出していった。結界が成れば大量の敵が押し寄せてくるだろう。その勢いを殺すように、陰から撹乱しては各個撃破を進めていく。中には、刀生を全うし消えゆくものもいただろう。けして劣勢は覆らない。それでも、諦めない主の元で士気を失うものはいなかった。――むしろ、動きを止めたのは時間遡行軍の方。明らかに様子が変わった。そう気付くと同時、遠くから聞こえてくるは、)――国広ッ!(遠征部隊の帰還だ。)
09/24 21:16*120
一期……!(結界を張り終える頃には庭は凄惨たる有様だった。粟田口の太刀も酷い怪我を負い、愈々追い詰められたその刹那、)こっ(視界の端で金色の尻尾が踊る。言葉を紡ぐよりも先に「主ッ!!」と管狐の後ろから続くように現れたのは、)加州、前田ッ! 和泉守と他の刀たちのところに、はやく……ッ!(――斯くして、続々と帰還した部隊により本丸内に残留していた時間遡行軍が駆逐されるまで間もなく。恐らく彼と再び顔を合わせるのは手入れ部屋になるだろう。結界の張り直しに立て続けの手入れ作業、かなりの霊力を消耗している男の面は何時にも増して色が悪いが、彼の傷の程度を見遣れば有無を言わさず寝台へと「座れ」と指示を出そう。)……お前、さっきはよくも僕をほっぽって行ってくれたな。(今はふたりきり。彼の依代へと手伝い札を貼りながらぽつり、落としていくのは恨み言のようなもの。)大体『その方がいい』ってなんだよ、あの状況で僕の傍を離れるなんてまったく正気を疑うな。第一僕が大事なら他の刀に僕を任せるなよ。そういう場合、普通は最後まで傍に居ようとか思うものなんじゃないのか。(口を開けば相変わらず文句ばかり。違うそうじゃないと咎めるように髪を掻いたのち、彼へと目を向けたならば借り受けていた浅葱色の羽織を眼前へと突き出した。)……格好いい刀だよ、お前は。僕には勿体ないくらいのな。(ありがとうの代わりに紡いだのは男なりの最大の褒め言葉だ。培ってきたものは崩壊し、志半ばで倒れた仲間は多い。本丸を立て直すには多くの時間が掛かるだろうが、必ず立ち直るであろう。――その後、男が演練でレア太刀を侍らせることは無くなった。見栄を張らずとも、もう前を向いていける。彼らの主は紛れも無く己で、己にはその技量もあるのだと胸を張って過ごせるようになったから。)和泉守、行くぞ。(傍らに居るであろう誇らしい刀を見上げては、口の端をあげて笑った。)
09/25 02:07*125
(不思議と気分は高揚していた。此処には大砲も銃器もない。望む戦場で、ただ一人認めた主の為に己を振るう事が出来る喜び。その誉こそが、戦い続ける原動力であった。時に呪符に助けられながら敵を屠り続け――援軍の到着で事態は好転へ。結界の甲斐あって、片が付くのは早かった。緊迫感が弛み、ふらついた所を堀川国広に支えられ。そのまま手入れ部屋へと投げ込まれるわけだが、)……あんだよ。(何事か言われるのを予見しながらも、逃げる素ぶりはみせず。寝台へ膝を開いて腰掛けた。如何な傷も、手伝い札を用いたなら忽ち回復してしまうのだから見事なものだ。とは言え、久しい頭脳労働や防衛戦への心的疲労は些か残り。)あのなあ……、(次々飛んでくる文句に思わずがっくりと脱力した。感動の再会、なんて柄ではないにしても、この場で文句とは全く恐れ入る。呆れ混じりの、ある種感心すら抱いたような半眼を向けていたが、差し出された羽織を前に瞬いた。ふっと笑ってしまったのは、)おう。当たり前だろ、オレは最先端の刀で……あんたの刀、なんだからさ。(その賞賛にこめられた想いは、理解しているつもりだ。ゆえに茶化しは無で、素直に受け入れた。勿体ない、などとは彼以外の誰も感じていないことだが、伝えたとて今は納得出来ぬだろうと直接的な否定はせぬまま。羽織を受け取り、反対の手が彼へと伸びる。掻いたことで乱れた髪を、今度は整えるように撫でやった。)あんたはよくやった。……だから、ぶっ倒れる前にちゃんと休めよ。(彼の葛藤を、勇気を。一番近くで見てきたがゆえに、そう口にすることも許されよう。柔和な笑みで、けれど真摯な響きで以って。失われた物は戻ってこないが、また始める事は出来る。何せこの本丸は、主に似て皆しぶといのだ。――それから、幾月を越え。)ああ、任せとけ!(かつて前を歩いていた足は今、肩を並べる。自信と信頼を携えた、主と同じ表情を見せながら。)
09/25 04:55*127