(そこへ足が、意識が向いたのはいっそ必然であったのかもしれない。ショッピングモールの中にひそやかに佇む一件の花屋、生花と造花それぞれを取り扱っているらしい店の前でふと足を止めた。見覚えのある後ろ姿、否、探し求めていた後ろ姿がそこにある。ざわざわと賑やかに人々が行き交うショッピングモールの中一瞬物音が途切れたような錯覚を覚えるもすぐに頭を横に振った、ようやく見つけたと細く安堵の息を吐きながら一歩近付き考えるように人差し指の背で唇をなぞる。見間違えようのない己が主へとそっと歩み寄り、)――……すまない、はなをつつんでもらいたいのだが。(店員と間違えたふりをする、果たして自然に振る舞えていたかどうかは定かではないけれど日頃甘い菓子作りに精を出している太刀にはこれ以上に上手い文句が出てこなかった。本丸に咲き乱れる花々を色々な部屋へ飾る姿を思い出せばこそ、花を意識させる言葉があれば何か少しでも本丸の事を、自分たちの事を、思い出してくれるのではないかとそんな気持ちがあったから。店の奥バックヤードに引っ込んでいるのだろう店員らしき姿は見えず、高い位置から彼女を見下ろしながら少しでも怪しいものではないというアピールの為かにこりと笑いかけて見せた。)
02/09 20:52*9
(自ら進んで賑々しい場に足を向けるのは稀だ。それなのに、理由なくショッピングモールに立ち寄ってしまったのは何故だろう。別所で用事を済ませ、自宅へ帰る前にふらりと足を向けたのは気紛れとしか表しようがない。目的もなく雑貨屋やスイーツ店などを見て周りながら、最終的に辿り着いたのはモール内の花屋。覚えのある香りに誘われるように、しずしずと店頭に寄っては取り扱いの花やレイアウトを観察してしまうのは職業病といえよう。そうして、眼前のことに集中していたせいだろう。背後から聞こえた声が己に向いていると気が付くのに時間を要して。ゆっくり振り返り、そのまま視線を上げてようやく理解するだろう。)……私は店員ではないんです。(表情は変わらないまでも、微かに下げた頭は勘違いをさせてしまった事を詫びるように。次いで店の奥を見たのは本当の店員を呼ぼうとしたからだが、人影が見えず開きかけた唇を噤む。やや迷うように双眸を伏しながら彼の方へ向き直ると、)どのような用途で使われるのですか?……店員ではありませんが、花は好きなので。少しは知恵を貸せる、かと。(控えめな口ぶりで続ける。話す相手ではなく花の方ばかりを見てしまうのは、出過ぎた真似だという自覚あればこそ。)
02/09 23:21*13
(掛けた声に振り返り此方を向く姿に探し求めたその人であると確信する、記憶を失ったとしてもその魂元は変わりがないのだと知ると自然と目元が緩んだ。小さく下げられた頭にまさかそうだと知っていますなんて馬鹿正直に言えるはずもなくほんの少しの罪悪感がちくりを胸を刺す、けれどそう、この僅かな罪悪感も自らに課せられた任務のためには仕方がなかった。本丸に咲いていたものと同じ花があれば記憶を揺さぶる手になるだろうかと店内へさりげなく視線を運ぶも生憎祖の片割れとは異なり花にはそれほど明るくない、故に彼女からの言葉は渡りに船というもので。)あぁ、すまない。かんちがいを……いいのかい?てんいんさんはいないようだし、たすかるよ。(花を見つめる視線が己へと向かないのを良い事に、気が緩んだせいで短刀たちに向けるような柔らかな視線を彼女へ注ぐ。そうして少しの思案の為に宙へと視線を投げ、再び唇を指の背で撫でた。あまり踏み込んだ事を言えば怪しまれてしまうだろう、それであればと彼女へと目線を戻し、)……たいせつなじょせいへのおくりものなのだが、わたしははなにうとくてね。もしよければわたしからみたかのじょのいんしょうで、いっしょにはなをえらんでもらえるかな?(幾らか弾んだ声色を返しつつ店員が戻ってこない事を願い、緩やかに小首を傾けた。)
02/10 20:45*21
(花屋に男性が訪れるのはそう珍しい話でもない。むしろ、愛想の無い店員の方こそ浮くと言っても過言ではない。幼い頃からの憧れとはいえ、よくこの社交性で花屋勤めをしようと思ったものだ。――尤も、嘗ての己はもっとよく笑う性質であった気がする。気がする、だけなのかもしれないけれど。思惟に浚われそうになる意識を持ち上げ、用途に耳を傾ける。女性ならば憧れたり羨むような背景は、やはり花屋としてはよく聞く話。そこで賞賛のひとつでも口を出れば良いものの、静かに視線を向けるのみで。)なるほど、わかりました。では印象をお伺いしても?……ああ、あと予算が決めてあるのでしたらそちらも教えていただければ。(ひとつ頷いてみせ、弾む声色を耳にすればやはりアドバイスを送るのもやぶさかではないと。改めて近くにある花を眺めながら、)全体の色味と、主役の花を決めてしまえば想像がつきやすくなると思います。(印象を断片的に拾って整えるのでも、彼の視覚的な感性を元に束ねていくのもいいだろう。あとは彼からの希望や要望が具体的な言葉になるのを待つ。両手を体の前で組み、まっすぐ背を正し相対する姿はどうしたって店員みたいに見えるだろうか。)
02/11 11:23*25
(話の切っ掛けとしちゃあ上出来なんじゃないか?脳内の兄弟刀がそう語りかけて来るのを黙殺しつつ了承の意を口にする彼女へと頷いて見せる、小豆長光という刀から見た主の印象を、自覚のない本人へ直接伝えるという稀有な経験に些かの緊張はあれど一度立ち並ぶ花へと視線を投げ掛け。)そうだね……わたしのしるかのじょは、じぶんにとてもきびしいひとなんだ。それからすこしたにんにごかいされやすいぶぶんがあるのではないかな、とおもってもいるよ。わたしからすればはなをめでることがすきで、がんばりすぎてしまうまじめながんばりやさんなのだとおもうのだけれど。(戦果を挙げなければと日夜奮闘している彼女の事を本丸の仲間はきっと暖かく見守っているし、彼女自身の為にも無茶を諫めるものもいる。その生き方の理由は知らないけれど人よりもずっと長く在る、在るとされる刀からすれば幼子を見るが如きそれで。揺れる花の中でふと目を引く青い花があった、大ぶりの花弁、目立つそれは確か。)――あねもね。(そう、確かそんな名前だった。祖の片割れが花言葉について話していた気がすると思い返しながら背を正した彼女へと向き直ろう、そうして目についた青いアネモネを指差して。)あれをちゅうしんに、あおいろとしろであまりはなのかずをふやさずにつくれるだろうか?よさんはとくにきめていないから、あのはないがいはきみのすきなはなをえらんでほしい。(どうかな、と問いながら彼女を見つめる。店員は未だ、出てこない。)
02/12 12:06*34
(花束を贈りたい女性の印象を聞く、というのは半ば惚気を聞くようなもの。日頃はそれに何か感じることは無いのだけれど、)――……(そわりと、何故だか落ち着かないむず痒さに苛まれる。理由は分からないけれど、その感覚を誤魔化すように右の手が対の腕を撫で付けた。内容はしっかりと聞いている。やがて響いたひとつの花の名も。伏し目がちの双眸がぱちと瞬く。)……アネモネ。(けして珍しい花ではない。ただ、花に疎いというひとが知るには些かマイナーにも思えた。なにか思い入れがあるのだろう、と予想付ける傍ら、今の自分にとって身近なものであったから少しの驚きもあって。自室の花瓶には青いアネモネが生けられている。それは最近始めたことだけれど、もっと昔から同じことをしていた気もして――、)わかりました。それだけ教えてもらえれば形にしやすいです。(雑念を払うように軽く頷き、先ずはアネモネを2、3本手に取る。そこに添えるように選ぶのは、白い薔薇。次に、カスミソウやユーカリ等の葉物でボリュームを出し、多肉植物も含めて手元で束ねてみる。それらを彼の方へと向けて見せて。)如何でしょう。実際はもう少し本数を増やすとして……印象をお聞きした上で、華々しさより上品であるように纏めてみたのですが。(もし彼が他に気になる花があるならば、それを足して確認しても良いだろう。ともあれ、希望に添う花束として仕上がるまで付き合うつもりではいたけれど――やがて店員が奥から出てくるのを見ると、)……あとは、大丈夫そうですか?(お役御免とばかりに、立ち去るつもりで足を引いた。)
02/12 22:36*37
(とある花の名前を呟いて目を瞬かせる彼女へと目を向ける、きみのことだよと勢い余って口にしてしまいそうで唇を引き結ぶと頷き花を選び始めたその背を見つめた。白く細い指が緑の茎を選び取っていく、花に彩られるようなその姿を果たしてどれほど見てきただろうか。平和な世で花々に囲まれている姿は静謐で血の気配のひとつも感じ取る事は出来ない。主として彼女を本丸へ連れ戻す事が任務ではあるけれど、そうしなければ自分たちは顕現している事も出来ない訳だけれど、彼女という個の人間においてそれは幸せな事なのだろうかと一瞬そんな考えが過った。口元へ当てた手の下で小さくうめくような声を零す、それは周りの喧騒にかき消されてしまうだろうけれど誤魔化すように咳払いをして向けられた花束へと視線を落とし。)ああ、とてもよいね。かのじょのいんしょうにぴったりだ、――かさねてもうしわけないのだがすこしまっていてもらってもかまわないかな?(疑問の形をとりつつも彼女の手から花束を受け取ると奥から出てきた店員へと足を向ける、彼女がそこに立っていてくれると信じて疑わない動きはいっそ神の名を冠するものとしての傲慢さが滲み出ていたかもしれないが。そうして店員へこれをつつんでほしい、と頼めば少し驚いた顔を見せつつも要望通りにそれをまとめて花束と呼ぶにふさわしい姿へ整えてくれる手際の良さに目を細めた。そうだ、)この、もちてのところにあおいりぼんをつけてほしいのだが。(わかりましたと頷いて青いサテン生地のリボンが結び付けられる、満足げに笑って足を向ける先、彼女は立っていてくれるだろうか。)
02/14 11:15*50
(人の機微に敏いわけではないけれど、一瞬、彼がなにか思い悩んでいるように見えた。花束が気に召さなかったのかもしれない、そう思えば一度ほどこうとするも、)……そうですか?あの、(合格を貰えても、気を遣われているのかと勘繰ってしまう。別のパターンも、と提案をしかけたけれど花束はあっさりと大きな手に持って行かれてしまった。返事も出来ぬまま、ただその背を見送る。待てと言われて逃げたくなる天邪鬼ではないから、言われたとおりその場に留まるけれど。ふぅ、と吐いた息を気疲れに因る。初対面の相手にどうしてここまで関わってしまったのか、自分自身計りかねるままに――ぼんやりとレジに佇む彼を眺めていた。初対面。そう、知らないひとであるに違いはない。だけれど、なにか、心の奥底にある塊のような違和が巣食う。それは今に限った話ではなく、気がついた頃よりずっと、であったけれど。彼を見るとひときわそれが強くなるのを感じていた。花束を抱えて戻って来る姿は、とても絵になる。静かに注ぐ眼差しは、見惚れるというには淡いもので、ゆるやかに瞬き。)お礼などでしたらお気になさらず。それより、花が元気なうちに届けたほうが。(留まるよう言われた理由といえば、そんなことしか思いつかない。ゆらめく青いリボンは彼の心遣いだろう、「喜んでもらえるといいですね」呟いてちいさく頷いたのは、きっと大丈夫だと、そう伝えるように。)
02/14 23:51*53
(プレゼントですか?と問い掛けて来る店員にはにかんで頷いて見せたのはほんの数分前、戻った先に彼女の姿が在る事に安堵を示して名残のような密やかな笑みをその口元へと浮かばせた。瞬く彼女の言葉に小さく首を横に振る、何のために花束を買い求めたかだなんて理由は一つに決まっていた。)これはきみへ。……どうかあやしまないでほしいのだけれど、わたしはきみのことをよくしっているんだ。わたしだけじゃない、きみのことをまっているものがたくさんある。いまはわからないかもしれないね。けれどどうか、うけとって。(差し出した花束の向こう、彼女を見つめる。紡いだ言葉は下手をすれば不審者だとすら思われてしまうかもしれないけれど本心から出たそれだった。彼女の帰りを待つ仲間は大勢居て、自分はその代表として現世へと下り立ったのだから。花屋の前で目立つ巨躯が花束を女性へと差し出している、そんな姿は何も知らない通行人からすれば何かの催しやPRの一つのように見えたかもしれない、微かなさざめきが広がり無数の視線が向けられる中静かに彼女だけを、己が唯一の主を見つめた。思い出してほしい、けれどこの平和な世で花を慈しむ彼女がその生を全うできる事もまた望ましい、相反する気持ちの中でその現存も、逸話すら危うい太刀は笑んで見せた。今の彼女には意味が分からない事だらけだろうけれど。)きみのえらぶみちを、わたしたちはそんちょうしたい。ねえあるじ、これをうけとったらおうちにかえって、わたしたちのことを、わたしのことをおもいかえしてくれるとうれしいよ。
02/16 19:50*66
(ふわりと花の香りが舞い込む、差し出された花束を前に瞬きをとめた。意味を理解するのにやや時間が掛かり、暫し黙ってしまったのだけれど。)……ごめんなさい。貴方が何を言っているのか……よくわからなくて……(すこし俯いて、頬にかかる髪に触れながらぽつぽつと返事を零す。彼自身が言うように、怪しむのもやむを得ない状況であると理解していた。けれど何故だか嘘をついているようにも思えず、おかしいのは己の方なのだろうと思えて。周囲の視線を気にするよりも、胸に渦巻く罪悪感のようなものに眉尻を下げた。やがて躊躇いがちに腕を擡げ、花束を手にする。じっとその彩を見つめては、静かに瞬きを重ね。)ありがとうございます。……でも、もし最初から私に渡すつもりだったのなら。どんなに不恰好でも、私ではなく貴方自身に選んでほしかったわ。(自然と堅苦しさが抜けた言葉だった。そうと向けた瞳はどこか拗ねるような色を滲ませる。だって、これでは喜ぶに喜べない。自分で見繕って作ったものを、綺麗や好きだなどとは言えないのだから。そんな胸中を、隠さず無遠慮に差し出してしまった理由もよく分からないまま。)お名前を。教えていただけたら……思い返すこともあると思います。(要望をひとつ伝えて、もしも求めたものが返って来たのならば、その音を仕舞い込むように頷いてみせただろう。そうして一歩後ろへ下がると、花を抱えたまま一礼を。)お花、たいせつに飾ります。ありがとうございました。(けして安い買い物でないことは、よく知っている。改めて感謝を口にして、踵を返す――その前に。花束から一輪の白薔薇を丁寧に抜き取ると、一歩近寄って彼の胸ポケットに挿し入れよう。さすれば何処か満足そうに口元を弛ませて、「さようなら」と会釈をして去っていった。確かな胸騒ぎと甘い花の香りを纏いながら。)
02/16 22:03*68
(俯いた彼女の言葉に首を縦に振る、何も覚えていないのだからその反応も当たり前で、むしろ走って逃げだされる事が無かっただけでも有難いものだった。けれど不意にその唇から零れ落ちた固さの抜けた声と向けられる視線に大きく目を瞬かせる、何処か本丸で見掛けるようなその姿はかなしい程に懐かしさを思い起こさせるもので自然と彼女を見つめる視線も穏やかな色を湛え。)そうだね、けれどいまのきみにわたしのえらんだものをさしだすのはきっとすこしちがっているから。――わたしは小豆長光。上杉謙信公が、武田信玄のぐんばいをきったかたななのだぞ。(伝えられる要望に心得たとばかりに口にするのは彼女の前に初めて形あるものとして姿を見せた時に述べる口上、きっとこれも彼女には意味の分からないものだろうけれど少しでもその記憶の糸に伝う雫になれば良いと。そうして一歩下がる彼女を見送るべく片手を振って見せるのだけれど、そのまま背を向けると思っていた為に細い指が抜き取った白薔薇が射された事に目を丸めた。長船という刀派の装束は黒や濃い色を基調としている事が多く目を引くような白は珍しい、呆気にとられているうちに今度こそ去って行ってしまう儚い小さな背中へ声を掛けられないまま見送っては参ったとでも言うように照れを口元へ滲ませた。彼女が去って行ったことでこれ以上何もないと判断したのだろう他の客が散っていく中掌で口元を覆い隠し、深く息を吐き出す。果たして彼女を本丸へと連れ戻す事が出来るのだろうか、彼女の意思を尊重したいと思いつつ反対方向へ向けて踵を返すと歩き出した。彼女との縁は再び結ばれたのだから、きっとまた出会えるだろう。その時彼女が選ぶ道が何であれ小豆長光は首を縦に振るという事だけは、変わる事の無い事象の一つだ。)
02/17 20:23*76