主君、お迎えにあがりました。

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(泣き出しそうな日和。こんな空模様の日は決まって頭が重い。同時に、言い知れない哀しさと憤りに震えてしまいそうな感情の波が襲ってくることも多かった。けれど今日は、不思議とそうならずにいる。あの花屋でのひとときより、お気に入りの花瓶に生けたアネモネを見つめては、“小豆長光”について考える時間が多かった。彼は軍配を斬った刀だと言った。同じ名を持つ、という意味でない事くらいは理解している。聞いたことがあった。人と似たような身体をもつ刀の付喪神――刀剣男士の存在を。彼がもしそうなのだとすれば、ひとつの仮説が立つ。彼はきっと、人違いをしているのではないか。審神者の妹と、己とを。似ても似つかぬ姉妹であるからそんな可能性は低かろうが、それ以外考えられない。もし次に会う機会があれば、正すべきなのだろう。そんな事を考えながら、人けのない小路を歩く。腕には白い菊の花束をたいせつに抱えて、厚い雲に陰るアスファルトに雫が染み始めない内に、足を動かすけれど――どこへ行こうとしているのか分からなくなった。いつも決まってこうなる。行き先を失った足先が弛み、停止する間際。“お姉ちゃん”と呼ぶ声が聞こえた気がして、弾かれるように振り返った。しかし、其処に居たのは、)……小豆長光。(呼ぶ、というより、唱えるように。音にして、瞬いて、中途半端だった身体の向きを変えて彼へと相対する。そうして、)貴方は、私を妹と勘違いしていませんか。審神者は、妹のほうです。(無表情で、温度を削いだ声色が問う。まるで何かに言わされているかのように。)

02/17 22:46*7

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(今日で審神者を連れ戻すという任務を打ち切るのだと話が合った。雨が降るだろうか、曇り空は晴れない胸中を示唆している様で自然と苦い笑みが口元へと浮かぶ。花屋前での邂逅から小豆長光の視線は自然と彼女を見守るものへとなっていた、そうして今日もどれだけの人間が居ようとすぐに見つける事の出来る彼女の姿を追って、大きな黒い蝙蝠傘を腕へかけ付かず離れずの距離を保つ。とはいえ大柄な体躯ではそれほど気配を消せているというわけではなかっただろうけれど、それでも。ふと前を行く彼女の足が止まった、振り返る彼女の口から零れ出るそれは確かに自らの銘。それを手放しに喜ぶにはどうやらまだ早い。)なんだいあるじ。……おや、わたしがあるじをかんちがいするほどはくじょうなかたなにみえるかな。わたしはしょうしんしょうめい、きみのかたなだよ。(下がる気温と同じように、温度を感じられない声色に肩を竦めて見せた。どこか茶化すような口振りは彼女の気持ちを少しでも溶かす事が出来たならと、けれどすぐにその表情を引き締めると一歩前へと足を踏み出した。そうして彼女との距離を少し詰め、見下ろす。小さな背、細い肩、菊を抱く華奢な腕。どれもが前線たる本丸に属するものではなく平和な世で過ごすために生まれてきたのではないかと思わせる、けれど本丸で待つ皆にとっては、小豆長光にとってはたった一人の"主"である事に変わりは無くて。)きみにはきみのほんまるがある。きみと、きみのかたながつくりあげたほんまるだ。(空は薄暗く遠くの方ではもう雨が降っているかもしれない、それでも僅かな光を求めて太刀は静かに言葉を落とした。)

02/18 14:27*15

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(“あるじ”と。現代では凡そ馴染まない呼称は不思議とすんなりと受け入れられる。だけれど、それを向けられるのは己ではないという認識に変わりはない。かと言って、彼が騙しているようにも見えないのが、一段と頭を悩ませた。)……では、私が忘れていると?(一歩、踏み出された距離から逃げることはしない。縫い止められたようにその場から動きもせず、近付く彼を見上げながら問う。疑いではなく、ただ真実を求めるがゆえの眼差し。穏やかなエメラルドも、落ち着きあるテノールも、知らない筈なのに何故だか懐かしくも感じる。胸に渦巻く違和感はどうしたって気持ちが悪く、仏花たる白菊ごと自らを庇うように抱いて。視線は俯く。)……それなら、貴方は。私がこの花を手向けるべき相手を知っているのかしら。(か細い声が、ぽつりと雨粒のように落ちる。冷たい吐息が唇をくすぐって、少しだけ指先が震える。)私は確かに、誰かの為にこの花を用意して、供えようとして家を出た筈なのに。どうしてか、いつも必ず途中でそれらを忘れてしまうのよ。……おかしい、とはずっと思っていたけれど……私はやはり、なにか大切なことを忘れてしまっているのね。(どこか哀しげに、或いは寂しげに呟く。それをわかっていても思い出せない無力感に苛まれながら、一度きつく瞑目する。そうして、顔を上げたなら再び彼を見据えて。)小豆長光。貴方が知っている私のことを、どうか教えて。私は、“私”を取り戻したい。(真剣に、熱を帯びた瞳は揺らめきながらも彼から逸らそうとしない。やがて雨音が近付いてこようと、気にも留めずに。)

02/18 22:27*18

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(見上げる視線を真っ向から受け止める、それはまるで本丸で相対する彼女と変わりなくも感じられて自然と目尻が穏やかに緩んだ。けれどそれも一瞬で、うつむいてしまった彼女の腕の中花束を纏める紙が立てる小さな音にすら紛れてしまいそうな小さな声に静かに首を縦に振って見せ、)――わたしは、すべてをしっているというわけではないけれど。わたしのしっているはんいでのきみのことをおしえよう、それをしんじつととるかきょこうととるかは、きみしだいだよ。(どこか寂しげにも聞こえる声で紡がれる言葉は儚く、けれど持ち上がる視線の力強さに上塗りされる。小豆長光は本丸が出来て暫くしてから顕現した刀の一振りであり主たる彼女のすべてを知っている訳ではないけれど、それでも真剣なその瞳を煙に巻くような刀ではなかった。だから、)なにからはなそうか、きくことがつらくなればとめてくれてかまわないからね。(そう前置きをして、彼女にとっては酷な話を淡々と始める。それがいかに冷徹な行為であるか知りつつも近付いてくる雨に真実を流してしまう程の優しさは持ち合わせていない。自らが顕現して知り得た事、白い仏花を手向けるべきその存在を何の誤魔化しも無く口にした。やがてぽつぽつと雨が地面を濡らし始める事だろう、どれだけの真実を伝えられたか、伝えられなかったか、彼女の言葉が雨の中に掻き消えてしまわないようにと開いた蝙蝠傘を彼女の頭の上へと翳して。)……きみがそのはなをたむけるべきは、(降り始めた雨は未だ小雨、傘の上で弾ける音は真実を打ち消すには力不足だった。)

02/19 23:37*28

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(たとえ記憶がなかろうと、目の前のひとは己へ心を砕いてくれているとわかる。それが更なる後押しとなり、一度は手放した現実を迎え入れる覚悟を決めて頷いた。泰然とした声が、しんしんと胸の奥底へ降り積もる。まるで教えを授かるような感覚は、深く覚えがある気がした。ただ耳を傾け、伏した瞳は地ではなく見えないいつかの景色を映すように。は、と吐息が震えたのは、審神者たる立場の話より、本丸襲撃の事実より――)……そう。そう、ね。そうだったわ。(冷たい粒が、頬を打つ。雨音や木々のざわめきを越え、ひときわ鮮明に届いた事実に全てが思い出される。ぞんざいに塗り潰されていた記憶が少しずつその輪郭を取り戻し、やさしく抱き締める花束に唇を寄せた。そうして数秒、身動ぎも出来ずにいたけれど――やがて肩の力をゆるめ、徐に顔を上げる。その表情は審神者としての意志を宿し、)……小豆長光。ごめんなさい、迷惑を掛けたわ。(紡ぐ名は同じでも、その響きはまるで異なる。信頼を寄せる一振りへ近付くに躊躇は無く、傘を持つ手をそっと握り、己へと傾けているだろう均衡を正すように彼の方へと押した。共に濡れてしまわぬように。それから、ゆっくりとその瞳を見上げる。)“私”を取り戻させてくれてありがとう。大切な、私の核たる部分を失うところだったわ。……本丸にはすぐに戻ります。こんな非道を絶対に許したりはしない。(眉根を寄せて――憤り燻る心を自覚し、自ら諌めるように深く息を吐く。今一度、花束を抱え直すと、)……その前に。少しだけ、付き合ってくれないかしら。……妹の、お墓参りに。

02/20 23:32*32

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(唇を閉ざして彼女を見つめる、数多の刀を従えて敵を屠る為の指示を出す責務はその華奢な肩へ背負わせるには重すぎると感じてしまうのは仕方のない事なのだろう。血を分けた存在がもう手の届かない場所に在る事を伝える事が果たして正しかったのか、いったい何が正しい事なのか分からないけれど持ち上がった彼女の視線が己のそれと絡むと確かなその光に口角が持ち上がった。紡がれる自らの銘は確固たる響きを持っている、それは彼女が己の知る彼女である証に他ならず。)いいや、あるじをてだすけするのもわたしたちのやくめだよ。ああ、きみがぬれてしまう。わたしはつよいのだからたしょうぬれてもだいじょうぶ。(傾けていた傘を元の角度を取り戻すように押されてしまうと目を瞬かせてまた彼女へと僅かに傾ける、実際風邪をひいたことなど一度も無いのだしと根拠のない自信の下人間である彼女を中心とした行動をとる事も道理で。見上げる瞳を見つめ返しつつ頷いて見せ、)もちろん、わたしもいもうとぎみへあいさつをしておこう。みなにしられるとこぞってあいさつにいきたがるだろうから、ないしょでね。(短刀たちのみならず一部の打刀や太刀もわいわいと声を上げるだろう姿は容易に想像がつくが、彼女も同じだろうか。低い位置にある頭を見下ろしながら目を細めてはエスコートよろしく彼女の隣へと並び立った。とはいえ現世の地理に詳しいわけでもない、彼女へ傘を傾けながら照れを誤魔化すようにして笑いかけ。)みちをおしえてくれるかい?……じつはきみをさがしているあいだにもなんどかみちにまよってしまったのだ。

02/21 11:22*37

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……“大丈夫”なのは知っているけれど、それが雨に降られていい理由にはならないわ。冷たいし、濡れたら不快でしょう。(再び己へと寄る傘の比重を正すように、中棒を掴んで真っ直ぐとなるよう押してしまおう。それと共に彼との距離を詰めたなら、ふたり収まる事も叶う筈。)……そうね。あの子は賑やかなのが好きだったし、刀剣男士のことも深く愛していたから、皆が来てくれたらきっと喜んでくれるだろうけれど……それは私がもっと功を立てた後にしたいわ。(明るく太陽のような妹の面影を描き、眼差しは凪ぐように。足を踏み出す前に、近い位置に並び立つ彼の腕をそうっと掴んだ。ひとつの傘に収まる距離では、歩く度に腕がぶつかりそうだったから。彼からは子のように甘やかされている自覚あればこそ、然して躊躇を挟まずに。)このまま道なりに行けば着くわ。5分も歩かないはずだから。(慣れぬ土地で迷うことを恥などと思う筈もなく、ただ答えのみ簡潔に示した。幸いにして雨足が今以上強まる気配はない。ゆっくりと歩き出しながら、)妹は審神者として今も本丸で励んでいるから、会えなくても不思議ではなかったのだけど。そう思わされていただけだったのね。……でも、それで良かったんだわ。もしあの子が生きているとなったら、きっと貴方たちを置いて行ってしまうところだった。(ささめく涙雨に、秘め事を溶かすように呟いた。片腕に白菊を抱えながら、前を見つめる。)戻ったら、これまでの遅れを取り戻さなくては。……その前に、私が不在の間に本丸を護ってくれた皆に何か……褒美でも用意しようかしら。もちろん、貴方にも。(言い慣れぬ単語を用いながら、思案するは真面目に。)

02/22 12:53*46

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ううん……それもそうだね、けれどきみがぬれてしまうようならはやめにおしえてくれるかい?(再度傘を押す彼女の言葉に眉を下げて笑うと小さく首を縦に振り、大きな蝙蝠傘の下二人で並ぶ。小豆長光という個体は彼女の妹の事は話に聞いた程度でその顔も知らないけれど、彼女の慈しむようなその声と言葉だけでどれほど良い審神者、良い人間であったか想像するに難くなく本丸の中でも幼い見目をした仲睦まじい兄弟刀たちの姿を思い浮かべては口元を緩め、)そのためにもいっそうわたしたちもはげまなければならないね。きみのあねぎみはわたしたちがまもっていくよときちんとつたえなければ。(こんな事態になったきっかけは間違いなく本丸襲撃だろう、命あっての物種とはよく言うがしかしどんな神もあやかしも人間の記憶なくては存在し得ない。拠り所である本体が現存している仲間たちでさえあの慌てようだったのだから、それすら持たない自分はと考えてふと傘を持つ腕へ触れる小さな手にそれは静止する。簡潔に告げられるそれに頷き、車道側に立って歩き出した。)きみにとってはこくなことを、にどもうしなうつらさをいだかせてしまうのではないかとためらいもしたのだ。しあわせなよで、いもうとぎみがいきているしあわせなゆめをみて、そうしていきるけんりがきみにはある。(雨音の中幼子へ語り掛けるような柔らかさでそう口にしながらも続ける、けれどね、と。)きみがほんまるにもどってきてくれることがわたしたちにとっていちばんのごほうびだよ。(雨の中自然と歩みはゆっくりになるけれど、それほど遠くはない目的地の入り口はすぐに見えてくるだろう。雨に煙る空は黒い傘に遮られて見えやしないが、遠くの空の端は光に切り開かれている。)

02/23 12:10*49

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(濡れるのは好まないから「ええ」と素直に頷いた。過保護とも言える彼の振る舞いに最初こそ困っていたけれど、今となっては慣れてしまった。)……私は、貴方たちに助けられてばかりね。(本丸襲撃の際、被害が最小限に済んだのは彼らの奮迅たる活躍のおかげだ。“狭霧”の戦功は即ち彼らの戦功である事を忘れた事など無いが、労いや感謝を常に言葉にするのは難しい。妹ならば、もっと器用に愛を伝えられていただろうか。そんな栓無い事を考えるが、後ろ向きな思惟ではない。やさしく響くテノールを、瞬きを重ねながら冷静に聞けている事がその証左だろう。“ご褒美”の望みには、どうにも眉尻が下がり、けれど唇は微かに弧を描いた。)……欲がないのね。それとも、逆に強欲とも言えるのかしら。私のこれからの人生、ということだもの。(軽口めいた口ぶりは、本気でないことが窺えるだろう。見えてきた墓地は通い慣れていた筈なのに、今日まですっかりと記憶から抜け落ちていたのだから恐ろしい。時に地の水面を揺らしながら歩き、ひとつの墓石の前に立ち止まる。)……不思議ね。とても綺麗に保たれている。(家族は今遠方にいて、墓守は己の役割であったから、忘れていた間に荒れているかもしれないと思っていたのだが。傘の行方は彼に完全に任せてしまって、しゃがみ込み抱えていた白菊を供えよう。たとえ雨粒が触れても気にせずに。)刀剣男士の皆が、護ってくれている……なんて、夢を見すぎかしら。(ふと微笑を浮かべて、両手を合わせる。瞑目して数秒、語らいを終えたならばゆっくりと睫毛を上げて。)小豆長光。私は、もしも幸せな夢の中でこの生を終えていたら、永遠に後悔していたと思う。貴方のした事は正しいわ。……来てくれたのが、貴方でよかった。(慈しむように、墓誌に刻まれた“咲”の名をなぞる。やがて立ち上がったならば、迷いなく彼を見上げて。)――帰りましょう。本丸へ。

02/24 00:57*57

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(隣から聞こえた言葉は思ってもみないもので目を瞬かせた、確かに直接戦うのは自分たち刀剣男士であるけれどそれも彼女の指揮あってこそ。しかし彼女の中ではそういう事ではないのだろうと肯定も否定もせずに歩みを進める。静かな表情はその移り変わりがどんな些細なものであれ鮮やかに眩しく見えるもので、細やかに緩むその頬に同じように笑みを返し、)ははっ、いまきがついたのかい?そうだよ、わたしたちはとってもよくばりなのだ。(可笑しいとばかりに弾む声は雨音にもかき消されずからからと良く響く、不意に彼女の歩みが止まった墓石の前、彼は一つなく綺麗に整えられているそこでしゃがみ込む彼女へ雨の一粒も当たらないようにとそっと傘を傾けた。)わたしたちはあるじのことがいっとうだいじだからね、いまでもまもっているだれかがいるのかもしれないよ。(それはきっと彼女がこの冷たくも暖かな石の下に眠るときも同じこと、寄り添うのが自分であるか他の刀であるかは別として。そうして少しの間彼女の小さな頭を見下ろしているものの、弱まり始めた雨音の中己の耳には良く通る声が鼓膜を震わせると一つ息を吐き出した。)ただしいと、そうきみにいってもらえたのならばよかったよ。……きみにもどってきてほしいというのは、わたしたちのわがままのようなものだ。それでも、きみをあんぜんなちからとおざけてでも、わたしたちにはきみがひつようなのだ。(本心からだった。本丸に在る幼子の見目をした仲間たちはその実自分より永く歴史を持つものがいる事も知っている、故に人間である彼女はそれよりも小さな幼子のようなもので小豆長光という太刀にとっては主という事を除いてもどうしようもなく愛おしい守るべきものだった。その彼女を、戦火の地へ引き戻す事への罪悪感が無かったわけではない。しかし此方を見上げる彼女の瞳はどこまでも美しく、強かった。)――ああ、かえろう、わたしたちのあるじ。

02/25 10:57*71

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(愉快とばかりに欲深さを肯定されてはちいさく息を吐いた。彼らを欲張りとするのなら、人間はどうなってしまうのか――自嘲にも似た感情はそのまま雨に流してしまおう。墓前に佇むふたつの影に、降り注ぐ滴はやさしい。)……そうね。そうだったらいいと思うわ。それならきっとあの子も寂しくないもの。(願望のような思考を、笑い飛ばさず受け入れて貰えた事にはやわく双眸を細めた。そうであればと願う思いもまた、妹へ届けばいい。雨粒から守られた傘の下で、懺悔のようにも響く言を聞いていた。)貴方にも、つらいことを強いたわ。けれど、ありがとう。(そうした葛藤を経て尚、呼び戻してくれた事への感謝を重ねるばかりだ。その判断に報いるべく、今後は一層に審神者としての功を成そうと心に誓う。空を見上げれば、雨はやんでいた。私雨の去った地には、やがて陽射しが差すだろう。けれどそれを待つよりも早く、傘の下を抜け出して一歩前を歩く。)その前に、一度家に寄ってもいいかしら。貴方から貰った花を置いていくのは勿体無いから、持って帰りたいの。(過日の邂逅も、今となっては笑い話のひとつとなるだろう。本丸には数多の花を息づかせていたけれど、貰った花というのは少ないもの。特別な青と白の彩りは、きっと審神者の私室に飾られるに違いない。道中を共にしてくれるなら、)……次の休みに、お菓子作りを教えてほしいのだけど。皆への労いとして振る舞うのもいいかと思って。(未だ本丸は本調子とは言い難くとも、息抜きも出来ぬ程ではなかったと記憶している。それゆえ、そんな日常のひとときを望んでも罰は当たらないだろう。すべては、亡き妹のために。その本質は変わらずとも、此度の一件を経て、それだけではなくなった事を知っていくのだろう。そしてそれを、きっと彼女も喜んでくれている気がして――雨上がりの空を見上げながら、貴き一振りと共に、在るべき場所へ帰っていった。)

02/25 19:10*72