主君、お迎えにあがりました。

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(学生の一人暮らしともなると朝のルーティーンが乱れるなんてことは何ら珍しくない。だからだろうか、いつも何気なく付けているピアスのキャッチが緩んでいることに気が付かず、歩いている最中に外れてしまったことはほんの偶然だった。)……っ、しまった……。(カラン、という軽い落下音に気が付いたことは幸いではあったものの、それも既に数歩先を歩いた後のこと。眉間に皺を寄せつつ振り返ったところで瞬時には見つからず、その場に立ち止まり辺りを眺めながら行方を探る。やがて視界の端にきらりと光る金具が目に入り、思わず「……あ、」と唇からは短い音が零れ落ち――そこで漸く傍の人影に気が付くだろう。奇しくもその人の足元に転がるそれへと手を伸ばすには断りが無いのもおかしな距離であったので、女は気まずそうに切り出す筈だ。)……すみません、その足元のやつ、取っていいですか。落としたみたいで。(そう言いながらピアスの無い左側の耳に髪をかけてみせたなら、相手の反応はさて如何に。許可が下り次第手を伸ばそうと考える傍ら、キャッチの部分は見つかりそうにないと諦めの溜め息は零れ落ちるばかり。)

02/06 22:55*78

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(学生姿であれば大体どこを歩いていても街並みに溶け込める、朝なら尚のこと。大通りを悠々と歩いていた折、携帯端末に着信が入った。往来の途中で足を揃えて止まり、通話し始める。)おはよう、何かあった?(まるで友人とするような何気ない会話の相手は、同部隊の刀剣男士だった。こちらへ向かっていたのだが電車が遅延しているため合流が遅れるとのこと、律儀な一振にかろく笑う。)あはは、それじゃ仕方がないね。大丈夫だよ、僕だけでも……あぁ、ごめん。後で掛け直す。(何やら訳ありらしい女性と目が合って、些か強引に電話を切った。見せられたなにもない左耳と、足元の耳飾りに合点がいく。)うん、ちょっと待ってね。(携帯端末を仕舞いながら了承し、そのまま滑らかに前屈をして足元に手を伸ばした。片手で耳飾りを拾い上げ、もう片方の手は両足の間に落ちていた小さな留め具らしきものを優しく掴み上げる。)もしかして、こっちもかな?(両の掌を差し出して、女性の物か確かめてもらおう。留め具のほうは偶然落ちていた別の誰かの物かもしれないけれど。)

02/08 00:34*83

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(声を掛けてから漸く気が付いたのだが、どうもその影の主は通話中であるらしい。その会話を中断させてしまったバツの悪さに思わず一瞬視線は彷徨うものの、すぐに頭を下げるだろう。)……通話中だったのに、わざわざすいません。すぐに――って、(口許はえっ、と驚いたままの形で静止してしまう。それもその筈、自ら手を伸ばしてとるつもりであったのに、あっさりと拾い上げられてしまったのだから。しかも己が見つけることが叶わなかったキャッチまで探し拾い上げてもらったとなれば、流石の無愛想も瞠目と共に少々慌てた声が漏れ出る筈だ。)えっ、わ、わざわざごめんなさい。……うん、それも私のもので間違いない。(彼の両の手に乗せられた実物をじっと見つめてみても、やはり自分の落としたピアスそのもので間違いはない。思わずホッとした表情を浮かべながら、そっと彼の掌の上からそれらを受け取るとしようか。そうして今度こそ外れる気配無く無事に左耳へと装着が叶えば、改めて頭を下げた。)……ありがと。これ、毎日つけてるやつだから……失くさなかったの、あんたのおかげだね。(そういう口許は少しばかり緩められており、最初に比べると些か柔和になったと言えるかもしれない。そのまま鞄の中を軽く漁ったなら、出てくるのは己の非常食たる棒付きの飴だった。)これ、お礼……にはならないかもだけど。よかったら受け取っておいて。(柄の下の方を持ってそっと差し出したなら、果たして受け取ってもらえるだろうか。断られたとあれば潔く引き下がるとして、一先ずは彼の反応を待つばかり。――やがてスマートフォンの時間に目を遣ったなら、「あっ、……じゃあこれで。本当にありがと」と去っていくだろう。慌ただしい朝の思わぬ珍事は、登校した後もきっと暫くは忘れられそうにない。)

02/08 22:15*86

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(急を要する連絡でもなし、電話については気にしないでと短い言葉でさらりと流してしまおう。拾い上げた二つが一対であり、かつ相手の物だったのならば何よりだと微笑む。)こっちの留め具は小さいからね、見つけられて良かった。はい、どうぞ。(先程聞こえた溜息の理由は分からないけれど、和らいだ表情からするに憂いは晴れたのだろう。とても大事にしていると聞けば、頷く代わりにゆっくりと瞬いて。)僕は拾っただけだし、どちらかと言えばさっき電話をくれた友達のおかげだよ。(あの電話が無ければ足を止めることはなく、耳飾りの留め具が上手いこと足の間に転がり込んだことにも気付かなかっただろう。ともすれば己が踏んでしまっていた可能性もあったと思えば、密かに胸を撫で下ろす。だから、お礼と差し出された棒付きの飴に一瞬はためらったけれど、感謝の気持ちをも拒んでしまうようなことはしたくなかった。)ありがとう。(柄の上の方を摘まんで飴を受け取り、形状を確かめては口元を緩める。綺麗な女性が、こんな可愛らしい飴を持っていたのがちょっとだけ面白いと感じてしまったのだ。慌てて去っていく姿に、つい小さく吹き出してしまう。)元気な人だったなぁ。(感服めきながら独り言ち、今度は往来の端に寄ってから電話を掛け直す。呼び出し音を聞きながら、最初に伝える言葉を決めていた。君のおかげでいいことがあったよ、と。)

02/09 19:53*87