(授業のあとに花屋でアルバイトをしているが、専門知識はないため接客対応が主である。今日はなぜかお役様が多かったので、体の動きはいつにもましてゆったりしていた。それでも無事に駅のホームまで歩けたし、乗り込んだ電車が空いていて長椅子に座れたのも良かった。小さく息を吐いて気を抜けば、程よい電車の揺れに誘われて眠気がやってくる。うつらうつらとし始めて、はっと目を覚まし時刻を確認する。)……あと、三駅です。大丈夫です。(そう、小さく呟いて意思を固めた――はずだった。ものの数分もしないうちに、浅い眠りに落ちていく。時折大きな揺れに反応しては重い瞼をどうにか上げて、僅かな荷物を胸元で抱えているのは最低限の防犯意識。そうこうするうちに二駅過ぎて、降りるはずの駅が近づいてくる。乗っているのは円環状の線路であるから、乗り過ごしても多分どうにかなるのだけれど。)
02/06 19:44*76
(決定的な情報とまではいかなかったが、隊員の一振りが探す審神者の手がかりを得ることが出来た。それは喜ばしいことだ。先の見えない任務であればこそ、時には前向きに賑わうことも必要である。――なんて大義名分を翳しながら、今宵は拠点としている場で晩餐と洒落込もうと。電車に揺られながら、連絡を取り合うべく端末の操作をしていた時。聞こえた呟きは、隣の女性からのものだったろうか。耳敏く拾ってしまったのは常に周囲に気を張る身であるがゆえに。“あと三駅”――そう聞こえてから、二つの駅を通過した。がたん、ごとん、揺れる長椅子の上で数秒考えた末。とん、と白手袋の指がその肩を叩く。閉じた瞼が持ち上がれば、微笑を湛えた少年の姿を目にするだろう。驚かせてしまわぬよう、やや距離を開けるように彼女とは反対側に身体を傾けて。)ごめんね、多分次の駅で降りるんじゃないかと思って。あと三駅、て言っていたから。(可能な限り不審さを取り払えるよう努めてはいるが、警戒されたとて気にせず笑みを浮かべていただろう。丁度良く車内には次駅のアナウンスが鳴り、どう?と問うように窺い見た。それから「あぁ」と何かを思いついたような声をあげ。徐に学生服の胸ポケットから取り出した其れを差し出そう。)これ、あげるよ。何か食べてると目が覚めやすいかなって。(その瞳の色と同じメロン味の飴ひとつ、行方は彼女次第。)
02/06 23:13*79
(電車の揺れとは違う、優しい何かが肩に触れた。気のせいかもしれないと思いながらも、微睡から意識が浮き上がり何度目かの目覚めを迎える。知らない少年がこちらを見ていて、優しい声を聞きながらぼんやりとまばたき――ぱちりと目を開く。)あっ、ありがとうございます。(アナウンスや電光掲示板からも次が下車駅だと分かり、少年に慌てて頭を下げた。感謝こそすれ、少年の心遣いを疑うはずもなく。差し出された飴を遠慮がちに摘まみ上げる。お陰様ですっかり目は覚めているが、受け取らないのは失礼であろう。)それでは、ありがたく頂きますね。お礼に私からもこれを。(抱えていた鞄の外ポケットから、小指ほどのチューブを取り出した。)試供品のハンドクリームです。無香料なので使いやすいと思いますが、要らなければ学校のお友達にあげてください。(ハンドクリームは花屋の隣にある化粧品屋から渡されたもので、帰り際に受け取ったばかりの未開封品だ。この時間に学生が乗っているのは珍しくないけれど、白手袋をしているのはちょっと不思議に見えて、手を大切にしているのかもしれないと咄嗟に考え付いただけ。やがて電車が駅に着いたなら、完全に停車してから席を立つ。少年がまだ乗っているであればその場で、自分と同じく降りるのならばホームで、にこやかに手を振って別れよう。)
02/07 21:08*82
(どうやら予想は当たったようだ。彼女が起こされ損とならずに済んで良かったと、「どういたしまして」の応えは朗らかに。またいつ睡魔が襲ってくるともわからない。お節介かどうかなど考える間も無く差し出した飴は、怪しまれても不思議ではないが。幸いにして受け取って貰えたのなら、にこっと笑みを深めた。そうして手を引くよりも先に、今度は彼女の方からなにかが返って来た。まるで物々交換のようなやり取りは、当然此方が受け取ることで成立する。)それじゃあ、僕もありがたく。持ち運びしやすくて便利だね。(小型のチューブを指で摘まむようにして引取り、知識としてあるが自身には馴染みのない品を観察するように眺めた。)こういうのは、塗った後は乾くまで待った方がいいのかなぁ……(少し考え込むような呟きは、譲渡せず使用するつもりである事が窺えるだろう。幾度か手の上で転がしたのちに、胸ポケットへとしまいこむ。目的地まではあと二駅であるから、席を立つしとやかな所作を見送ろう。振られた手に気が付いたなら、同じように振り返した。やがてその姿が見えなくなったところで、通信端末が震えた。まだこられないか、という連絡に『もうすぐ』と返して息をついた。今宵の集いではこのひとときのことが語られ、土産として貰ったハンドクリームを皆で試す一幕があっただろう。仲間内で匂いや感触などを楽しむさまは、まるで本当の学生のようだったとか。)
02/08 18:53*85