主君、お迎えにあがりました。

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(趣味、と呼べるものは無い。それゆえ、休日というのはなにかと時間を持て余してしまいがちだった。自宅で無為に過ごすのも珍しくはない中、今日外へ出向いたのは単なる気紛れで、特に理由なんてない。それでも、心地好い気候は当て所なく歩くだけでもだいぶとリフレッシュになりそうだ。選ぶ道は人けの少ないほうで、やがて広々とした森林公園へと辿り着く。まだ朝方とあって然程利用者もおらず、清潔に整備されたベンチへと深く腰掛けた。緑の香りと、鳥の囀りに包まれた空間は癒しそのものであり、)……おはよう。今日は早いのね。(ベンチの裏側からのそりと現れた猫も、絶大な効果を誇るセラピーのひとつであろう。この公園の名物猫でもあり、所謂ボス猫と呼ばれるような風格がまた愛らしい。ふくよかな体躯に反した素早い身のこなしで隣に着座するさまを見届けては、表情をゆるませてその頭を撫でやる。そうして至福の空間を堪能していたところ、ふと近づいてくる影に気が付いて。猫に触れたまま、視線だけが確認するように相手へと向く。)貴方も、猫を……?(独占するつもりはない為、猫に会いに来たというのならば席を譲るだろう。尤も、広いベンチは猫を挟んだ向こう側にも人ひとり座れるスペースはあるのだけれど。)

02/03 22:12*46

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(一度根ざした本丸から離れたところにおける休息、霊力の供給の薄さ、様々な要素のお陰で、快調とは言い難い。平素より少し重い体をぐぐっと伸ばしながら、欠伸をして──澄んだ空気を思い切り吸い込めば、少しは頭も冴えてくるだろう。夜とはまた異なる、生き物が息づいている朝の静寂はこの男にとっても心地の良いものだった。公園は横切ろうとしただけだったが、緑に憩う一人と一匹を見かければ、なんとなく足先をそちらに向ける。)いや、俺は通りがかっただけ。あんたは常連?……人懐っこいな、こいつ。全然逃げねえの。(驚いて逃げ出すことのないように、ゆっくりとした足取りで近づいて、その触れ合いを少し見守る。譲られそうになった席は「いいよ。座ってな」と断り、猫がこちらを気にしていないと感じれば、猫を挟んだ隣へと腰を下ろした。そうして加わったもう一振りは、ふくふくと丸い毛玉がごろごろと喉を鳴らすのが聴こえて、自然と綻んでしまう。)こいつの名前、なんて言うんだ?(当然猫に問うても愛らしい鳴き声しか聴かせてくれないので、愛でているその人へと向けて。)

02/03 23:31*48

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(立地の良い公園は足を運ぶ人は多く、知らぬ顔も珍しくはない。堂々とした佇まいが目を引く青年もまた、初めて見るひとだ。気さくな語り掛けに等しい波長で返すことは出来なくとも、)常連、という程ではないですが……月に何度か。この辺りでは有名なアイドル猫ですから、人との接し方をわかっているんでしょうね。(お日様を浴びてあたたかくなった黒ぶちの毛を撫でながら、語り口は自然とまろいものとなる。目的でなかったにしろ、愛らしいその子に魅了されることもあるだろうと腰を上げかけたが。不要と言われたなら「そうですか」と姿勢を戻した。指先は再び猫へと伸びて、顎下をちょいちょいとかいてやる。初対面の相手と会話を弾ませる術など持ち合わせていないのだから、固い唇が薄く開いたのは彼の社交性ゆえだろう。)……さあ。わかりません。野良ですから、きっとたくさん名前を持っているのでしょうけど。(指先に伝わる喉の震動を感じながら、瞳は猫へ向いたまま答える。やがて『もういい』とばかりに顎を遠ざけられると指を離した。行き場をなくした手は、膝へと戻る。)私もつけようと思ったことはありますが。……名前ってとても大切なものでしょう。飼えもしない私が、易々と決めてしまってはいけない気がして。(空気を震わす声はちいさく、どこか遠くを見るように視線を上げる。無論、名前を付ける人々の気持ちを否定したいわけではないから「持論ですけど」と続けてこぼす。ゆるやかに幾度か瞬き、隣の黒ぶちを見下ろし――その宝石みたいな瞳が彼を見上げているのを知れば、)触ってあげてください。きっと、喜びます。(勝手な推測であれ、的外れでもない筈だ。無理強いはしないだろう。けれどもし、応じてくれたなら微笑ましい光景を和らいだ表情で眺めていたに違いない。)

02/04 18:18*52

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(話を聞くに、野良にしては身をやつしているようにも見えないし、己が愛嬌を武器にしてしたたかに生き抜いているのだろう。愛らしさの割に逞しい生き物だと感心するような声が溢れたか。まじまじと戯れているのを眺めながら、名前に関する持論とやらには茜色の双眸をゆっくりと瞬かせる。一度薄く開いた唇を閉ざし、少しの思考ののちに。)……あんたみたいな人間を、思慮深いって言うんだろうな。(浮かんだ所感をそのまま口にしてみる。腕を組み、先の彼女の言葉を反芻する。)うーん、そうか。そうかもな。そうかもしれねえけどさ……俺はいいと思うぜ。それこそ、いつかこいつが誰かに飼われることになったら、思い出くらいしか残らねぇだろ?親しむ時でも、懐かしむ時でも……名前ひとつあれば、違うもんだよ。(穏やかな声色だ。「まあ、これは俺の持論だけど」と笑って。)名前は大切だ、ってきちんと思ってくれる相手なら、なおさら……呼んで欲しいって思うかな。俺は。(強いはしない。追いかけるように持ち上げた視線も、同じ遠くを見れども交わることはないだろう。──名前のみが後世に残る来歴のことがあって、少々込み入った胸の内が透けたかもしれない。決して名乗ることはない癖に、細める双眸にはほのかに強請るような色合いを混ぜた。)──……こんな感じ?(それも瞬きの間に失せてしまうけれど。勧められるまま、そろりと手を伸ばす。彼女が先ほどしていたのを真似するかのように撫ぜてやると、膝にちょこんと頭を預けられてしまい、くすぐったそうに笑ったろう。幸いを容易く呼び込む温もりを享受しながら、心と体とを安らげたのだった。)

02/04 23:53*56