(通勤や通学の人々が集中する時間、つまり帰宅ラッシュのころ。人の流れに乗って電車を降り、駅の外へ出ようとした折に優雅な音が聞こえてきた。ふと気になって来た道を戻り始め、やってきたのはホームから改札の間にある広いスペースだ。鎮座するグランドピアノで誰かが美しい音色を奏でている。こちらへ来る前に得た情報の中にあったのを覚えていた。そう、ストリートピアノだ。)へぇ……。(音楽に関する知識はあまり持ち合わせていないが、己と同じく音色に惹かれて集まり、足を止めている人垣が出来ていることから察するに、上手いと称されるに値するのだろう。これだけの人に囲まれて、演奏者はどんな心地なんだろうか。)この曲、聞いたことがあるような気がする。(いったいどこで耳にしたのか、悩ましげに眉を寄せた。誰か曲名を言い当ててくれやしないかと、一層耳を澄ませてみたり。)
02/03 18:59*42
(駅というものはいつだって人で溢れ返っている。けれど、時間帯によっては著しく混み合うこともあり――人混みなど知らぬひと振りの打刀は闇雲に彷徨っていた。そんな中、ふと耳に届いたのは優雅な音色。まるで誘われるかの如く足を運んだその先のひとつの人垣。興味からぴょんと小さく跳ねてその正体を確認せんとするが、これは不発に終わるだろう。諦めて横から回り込めば、やっとグランドピアノへと視線が届いた。)わぁっ、すごい……!(瞳を輝かせながら感嘆の声は小さく零れ落ちた――と、同時。隣でぽつりと呟いた声にひどく聞き覚えがあったものだから、視線はすぐそちらへと向けられた。勿論、驚きと安堵、その両方を込めて。)清磨!こんなところで会うなんて……。清磨も、この音色に誘われてきたのか?(話しかける様は些か気を許したものであるに違いない。それは別の本丸の刀であったとしても、彼が唯一無二の親友であるからこそだ。)それにしても、曲名か……確かに耳にしたことがあるような気がする。(そう言うなりううん、と小さく唸りながらひとり腕組みを。そして、やがて思い当たったかのように双眸は大きく見開かれる筈だ。そのまま隣り合う彼へと視線は向けられて、記憶違いでもない限りは共通たる話題として口に出すだろう。)そうだ、思い出した……『月の光』という曲だ。ほら、政府の休憩室で流れていなかったか?
02/03 20:49*45
(音色に感動した人々の呟きの中に“親友の声”が聞こえて、そんなはずがと思いながらも、そちらへ視線を向けずにはいられなかった。確かに親友の姿がそこに在って、緩やかに目を細めた。)水心子、会えて嬉しいよ。(問いかけにゆるり頷いて肯定を示す様は、気心の知れた間柄に向けたそれ。傍らの彼は同じ本丸にいる個体ではないけれど、“水心子正秀”が源清麿にとって親しみを感じる相手であるのは揺るがない事実である。己と同じように悩んでくれる真剣な彼の姿を、眩しいもののように見つめていた。やがて彼が探し当てた曲名にピンときて、表情を明るくする。)あぁ、なるほど。どこか懐かしいと思っていたんだ。曲名をちゃんと覚えているなんて、さすが水心子だね。(素晴らしい親友を賛辞する声は控えめであるが、熱量は惜しみなく注いでいる。政府で過ごしていた頃の思い出と、此度の邂逅に浸りながら演奏を聞き終えた。奏者が優雅な礼を取れば、聴衆のひとりとして温かな拍手を送ろう。そうして人垣が少しずつ崩れていく中で、改めて彼に話しかけた。)水心子、これまで得た情報を交換しないかい? 僕はあまり成果を上げられていないんだけどね。駅の外に丁度いいカフェがあるんだ、甘い物でも食べながらどうかな。(先を急ぐのでなければと、やんわり誘いかける。断られたならば、職務に忠実な彼を励まして見送るつもり。同意が得られたならば暫しの休憩時間といこうか。懐かしい音楽の余韻を分け合うように――。)
02/04 15:37*51
(こちらへと向けられた穏やかな表情と名を呼ぶ涼やかな声は確かに“親友”そのひと振りのもの。所属が異なるとはいえ、無条件に心を許してしまうのは最早仕方の無い性としか言いようがなかった。「うむ、私もだ」と頷いて返答してすぐに考え込んだ矢先、手繰り寄せた記憶は確かなものであったらしく、彼の反応を得て少々ホッとした表情を浮かべていたに違いない。)いいや、それほどでも……記憶違いじゃなくて良かった。我が本丸の清磨と共によく聴いていたからな、偶然覚えていたんだ。(賛辞の声に思わず詰襟をくんと引き上げ、そのむず痒さから視線は少しばかり彷徨うだろう。ただ、音色に耳を傾けては不思議と懐かしくなるものだから、隣り合う彼と共にと然と演奏終了まで聴き入っていたことは言うまでもない。同様に惜しみない拍手を送った後、改めて彼の方へと向き直ったなら、齎された提案に瞠目を示す筈。)――えっ!いいの!?わぁ、嬉しいなぁ!(無邪気な笑みはごく自然に零れ落ちて、まるで飛び跳ねでもしそうな勢い。それは小休憩が欲しかったということに加え、他ならない源清磨という存在と時間を共に出来るということに対する喜びだ。寧ろ後者の方に重きが置かれているのだが――と、一通り喜んだ辺りでハッと我に返るのがお約束。ゴホンとわざとらしい咳払いを挟み、改めて表情を引き締めるだろう。)慣れぬ地、慣れぬ任務においての情報の交換は大切だからな、是非お供させてもらおう。……何処のカフェなんだ、清磨?(きっとこちらを慮って置いてくれたであろう枕詞を大義名分に、そのままふたり揃ってその場を後にしよう。彼が先導してくれるというのなら大人しく後を付いていき、その姿は親鳥と雛鳥も同然かもしれない。辿り着いたカフェでは遠慮せずに甘い物を選んで、ピアノの音色の余韻と共にひと時の休息――という名の情報交換は恙無く過ぎていった筈だ。)
02/05 08:50*57