(母親と訪れた薬局にて、究極の二択を迫られていた。否、迫られている訳ではないけれど色のない無香料の薬用リップクリームと薄い桜色が口に乗る色付きリップクリーム、両方を手に取って真剣な面持ちでそれぞれを見比べていた。優等生の真面目ちゃんで通っている以上購入するべきは左の薬用リップクリームで、緑と白の古風な印象を抱かせるパッケージを無意識に睨むように見つめ。)でも…でもなあ……。(どうしたって目を引くのは可愛らしいピンク色のパッケージ、勿論色付きリップは校則違反だと分かっていてもちょっとした憧れがそこにあった。その場に立ち止まってぐるぐると思い悩んでいると不意に影が掛かる、意を決し顔を上げて、)お母さんこれどっちがい…いと…いや……ごめ、ごめんなさいすみません…。(消沈。両手にリップクリームを握り締めたまま、母親が呼びにきたものだと思い込んで掛けてしまった声は尻すぼみに消え。)
02/02 13:14*28
(病とは無縁の身で、何故薬局に居るのかと言えば。それは無論目的の為だ。審神者らしき人物がこの薬局を利用しているとの情報を元に足を運び、遭遇出来たならば僥倖、そうでなくとも何か手掛かりを得られるだろうと踏んでいたのだが。)……まぁ、そうだよね。(捜し人の姿は見えず、ならばと従業員の一人に尋ねてみたものの、守秘義務を掲げられて肩を竦めた。元政府に属していた身としては、その重さもよく知るところだからこそ引き下がるのは早かった。薬局を出る前に、今一度姿を確認するように人の合間を通り抜けて回っていたそのとき。)……うん?(熱心に何かに注がれていた眼差しがぱっと持ち上がり此方を見る。ぱちりと合わさった瞳は不思議そうに緩慢と瞬くが、)僕はこっちの方がいいと思うなぁ。春が訪れみたいで、気持ちが明るくなれそう。(桜色のパッケージを、つん、と指先で軽く突いて示そう。彼女が悩んでいる理由など分からないものだから、他人事の推薦は鷹揚に笑った。まるで、謝罪も呼び違いも聞こえていないふうに。)どこか具合が悪いのかい?(次いで向けた言葉は、立ち入った話題の自覚がある。それゆえ返事を得られずとも笑みが消えることはないだろう。問い掛けの理由は薬局に居たからという安直なものだが、たとえば今姿見えぬ主がもし同じであったならと――過ぎった心配が唇を動かした。)
02/02 18:33*29
(店員であったなら、あるいは女性であったならばこんなやってしまったという感情には襲われなかっただろう。違うんですすみません、羞恥の余り口をついて出るそんな言葉が途切れたのは穏やかな声と共に握ったままだったパッケージが小さく揺れたから。ずっと気になっていたピンク色のパッケージ、もう既に心は決まっていたけれどもう一歩の後押しが欲しかったことを自覚すると言い間違いの羞恥に朱の乗った顔はそのままに頭を下げ。)あっ……ありがとうござい、ます。(思わず敬語になってしまったのは彼の持つ落ち着いた雰囲気に背筋が少し伸びたせいもある、左手のリップクリームを棚へ戻して大事そうに握り締めた色付きリップに自然と頬が緩み。不意に掛けられた問いに一度二度と目を瞬かせて首を横に振り、赤いセルフレームの眼鏡の下少々困ったように眉を下げた。)あの、……乾燥で唇が切れちゃって、それで。具合が悪いとはかではない、です。あっ、(口を動かすとひび割れて皮が剥けた唇が少し痛む、ふと彼の向こう側で母親が手招いている様子が見えた。会計に向かうのだろう籠を持ち上げて見せるその仕草に頷いて返し、そのまま彼へとまた頭を下げる。そうして足早に売り場を後にした、手に持った色付きリップを目にした母親が珍しいわねと掛けて来る声に照れ笑いをして見せながら。)
02/03 00:07*35
どういたしまして。参考になったなら良かった。(律儀に頭を下げられては、礼を受け取らないわけにはいかない。こくりと頷いて、ただ力になれた事を安堵するように微笑む。詰襟の学生服を着用している今ならば、傍からはきっと歳の近い友人にも見えただろう。大事そうに桜色のパッケージを持つ姿は、“物”を大切にする主を彷彿とさせて微かに目を伏せた。それも悟られない程度の一瞬の間であったけれど。もしかしたら、この少女もまた誰かに探されている一人なのかもしれない。そんな思案がよぎればこそ、余計な詮索が唇からこぼれ出たのだ。首を振る仕草から得た答えによって杞憂と変わったが、それでも彼女の言葉を待った。)……あぁ、そうだったんだ。よかった、ていうのは君に悪いけれど、身体を壊していないのなら何よりだね。(唇を見たのは始めの一瞬だけで、すぐに視線は少女の瞳へと戻る。この時期は“ケア”が大変だと、政府の女性職員も言っていた事を思い返せば「唇、早くよくなるといいね」とささやかな願いを交えて伝えよう。立ち去る際、頭を下げる彼女には目礼で応じてその背を見送った。その会話が聞こえなくとも、親子で歩く姿にはなにか腑に落ちるような心地を覚える。)あれがきっと、当たり前の形なのだろうね。(呟いた言葉は誰に拾われるでもなく、心に落ちた灰色の感情だけを残してその場を後にした。)
02/03 18:33*41