主君、お迎えにあがりました。

kymr_k.png

(駅前にある忠犬像前は、有名な場所なのだそうだ。令和の世で通信端末が一般に普及してなお、像を中心とした広場には賑わいがある。待ち合わせをしている人々に紛れるようにして、ニットセーターを纏った学生に扮した一振は行き交う人々を眺めていた。闇雲に大都会を捜索するよりも、まずは人が多く集まる場所を重点的に当たってみようと思った次第。木を隠すなら森の中とはよく言ったもので、数時間は優に居座っている己を気にする人など誰もいないと思っていたのだ――。)え? 一緒にカラオケ……?(学生と思わしき人の子の集団に、声を掛けられてしまった。あちらに悪意はないようだが、どうやって断ったものかとは胸の内に留め、穏やかな声を紡ぐ。)誘ってくれてありがとう。でも、僕は人を待っていてね。もうすぐ来てくれるはずなんだけど。(あちらが諦めてくれるよう話を持っていこうとしたが「2時間前もここにいたよね」と悪気なき目ざとい指摘が入る。話を合わせてくれる協力者を呼ぼうかと、自らの通信端末に手を付けて。)

02/01 21:30*14

sgr.png

(人混みは得意ではない、けれど、それが仕事を断る理由にはならない。都心から少し離れた場所にあるフラワーショップでは、手渡しで花を届けるサービスを行っている。今日は急ぎで花束の注文を一件受注し、しかも届け先が居所ではなく駅前の某像前とあっては難航必至であろうが、それも請け負ったならば致し方ないこと。白や橙といった暖色系で纏められた花束を抱えながら、注文者である相手を探す。無茶を聞く程のお得意様であるから、本来は顔を見ればすぐにわかる筈だったのだけれど。今日は代理の者が来るというので外見的特徴に頼るのみであった。人々の邪魔にならないよう、花を傷めてしまわないよう、注意深く歩いていたさなか。それらしき人物が目に留まる。どうやら取り込み中のようだけれど、様子を窺い待っていても終わりそうもない。腕時計を一瞥したのち、ふ、と息を吐いて近付いて行く。)……お話中のところ失礼します。あの、佐藤様でいらっしゃいますか?(控えめに切り出しながらも、確認の声ははっきりと。愛想の良い笑顔こそないものの、丁寧さだけは見て取れるだろう。事情を知らず空気も読めずの介入が、邪魔となるか、助け舟となるかなど分からないまま。花束を持ち上げてみせたのは、注文を確認する意で以って。)

02/01 23:51*18

kymr_k.png

(知らない声が、知らない名前で確かに己を呼んでいた。おもむろに声の主を見遣れば、相対している学生の子たちも同じようにそちらを向いて、一斉に多くの目がを引くこととなったのは温かな花たちと一人の女性だった。)――うん、僕が佐藤だよ。こんなところまで届けてくれて、ありがとう。おかげで、これから会う人に素敵な贈り物が出来そうだ。(女性のほうへと歩いていき、両手を広げて花束を受け取ろうとする。実のところ、注文した覚えはない。だが、好機を逃すわけにはいかない。花まで用意しているとなれば、学生たちは諦めがついたようでそろそろと去って行った。十分に彼らが離れたのを確認してから、改めて女性に向きな直ろう。)どうしようか困っていたんだ、助かったよ。ところで、これは本当に僕が貰っていいものなのかな? あぁ、代金を払わないとね。(さて、この美しい花束の値段は如何ほど。協力者の誰かがこの状況を予見してか、あるいは捜索に熱するあまり周囲への警戒が厳かになっているという遠回しな警告か。何にせよ、助けになったのは変わりなく感謝するばかりだ。代金を渡し終えたならば、女性がそうしていたように花束を抱えて。)ねぇ、この花たちは特別なことをしなくても長く咲くのかい?(女性が行ってしまう前に、気になったことを問いかけた。単純に、花瓶に活けておけば大丈夫なのだろうかと。花の世話など碌にしたことが無いけれど、大事にしたいと思ったから。)

02/02 21:07*31

sgr.png

(合致した特徴は抽象的でしかなかったから、否と言われることも想定してはいた。幸いにも彼が届ける相手だったようで、人知れず息を吐く。注がれる視線の冷たさには気付いていたが、若者に圧される程繊細ではなく、“佐藤”を名乗る少年へ自らも歩み寄ろう。)いえ。こちらこそ、ご注文いただきありがとうございます。(広げられた腕に向けて、慎重に花束を渡す。ラッピングのセロハンに折れ目がつかぬよう、花を触れさせてしまわぬように。意識は完全に受け渡しに割いていたものだから、気が付けば傍に居た少女たちが居なくなっていた。悪いことをしただろうかと、思案を巡らせたのも束の間、助かったという言葉には微かに双眸を丸くして。)……はい。佐藤様にお届けするよう承っておりますので。代金についてですが……、(ようやく、ナンパの最中に割り込んでしまった事実を自覚して何とも言えぬ胸中に数秒言葉を探した。結局は、当たり障りない店員としての返答のみとなるが、エプロンのポケットから取り出した明細書を差し出す事で妙な間は生じなかった筈。支払いを受け取ったなら領収書を手渡し、あとは立ち去るのみであったけれど――)そう、ですね……今は花も長持ちしやすい時期、ですから。なるべくお早めに花器に移していただいて、定期的な水の交換と葉や茎の手入れをしてあげれば半月程は保つかと。蕾や咲き始めの花もありますので、その子たちはこれから綺麗に咲かせてあげてください。(セールストークは不得手でも、花が好きなのは確かであるから。情報を求められるならば親身になって己の知識を引き出して伝えただろう。この花束が、誰かの笑顔の源となってくれたのならと、そう願うばかり。)

02/03 00:01*33