tsfm.png

(――無理矢理。その四文字がピッタリ合う程無理に連れてきた店は、“もう帰らないと”なんて言葉を引っ込めさせた。最後の一軒だから、そう宣う口振りはまるで若者のそれであったけれど、カランと響いた入り口の音に全てを誤魔化してしまうようなそんなつもりで。隠れ家のようなバーは薄暗く、クラシックのBGMが流れる厭に洒落た店。)……私は現世に来るとね、必ずここに来たくなるんだ。(静かな店内に合うようボリュームを落としながら、酔いに任せた近い距離で紡いだ声はせめて呂律が回って居ると良いが。もしかすると彼の好みとは異なるかもしれない、そうは思っても足が此処へ進んだのは心の何処かでこの店を『好きな相手と来る店』と決めていたから。カウンターに座りカクテルグラスを拭き上げるバーテンダーへ片手を上げ、最後の一杯を決めるべく相手へも目線を送った。)今日の最後を締めるなら君は何が良い?いっそ彼に任せてみようか。(どちらでもと頷くバーテンダーへ瞳を細めて決定権を委ねた。残りの時間が少ないことを忘れさせるような楽しさを含んだ声は、本丸とも現世とも隔離されたようなこの場でひと振りだけに向けられた。)

06/25 22:37*38

nhng.png

(そろそろ戻らねばきっと主命第一の昔馴染みは怒り狂う事だろう、しかし当の主から誘いを掛けられてしまえば余計な言葉を口にもできず。訪れたそこは一番初めに入った大衆酒場とは異なりすっかり落ち着いた様相を呈していて思わず辺りを見回した、薄暗く静かな音楽の流れるそこは日頃賑やかな場で飲むことの多い身には慣れないもので。現世へ訪れた最初の頃に比べて少し近い距離から聞こえる声に一瞬小さく肩が跳ねる、もう飲み過ぎねぇ方がなんて似合わない言葉を掛けつつも慣れない店内を眺め彼に寄り添ってカウンターの一角へと腰を下ろし。高いはずの椅子も槍の身には丁度、若干足が余ってしまうようだが大した問題ではないと向けられる視線へ肩を竦めて見せ。)俺ァこういう場所は慣れてねぇもんでな、任せても良いかい。(彼へか、バーテンダーへか、どちらともつかない言葉と共に視線を向けるのはグラスを磨いていたバーテンダー。日本酒ならば露知らず、元々バーを調べてはいたけれどいざ彼が来たくなるのだと、そう語る場に身を置いて粗相はしたくはないと正三位らしからぬ保身が働いた。心得たとばかりに頷くバーテンダーへ軽く片手を振って見せる事で返事と変え。)

06/26 21:33*64

tsfm.png

(大丈夫大丈夫と宣う酔っ払いの説得力こそそうそう有るものでは無いにしろ、上機嫌に腰を落ち着けてはつい隣の横顔へと目線を奪われる。余程酔いが回っても顔に出ない体質であることは幸いか、彼の返事に頷いてはバーカウンターの向こうへと注文を。)……おっと、私が決めても?じゃあ、そうだな……私はブルームーンを。彼にはカミカゼをお願いしようかな。(受け取った視線を良いように捉えるのは慕う気持ちもあってこそ、鈍い思考回路を動かしながら2つ分のカクテルを指定してはバーテンダーの静かな肯定と作り始める動作を見ながら今日一日を思い返した。途中数軒の記憶がどうにも薄いのは、楽しい時間についグラスが進んでしまったからなのだと自分を窘めつつ。)日本号くん、今日は楽しめた?(視線はカウンターの中へと吸い込まれたまま、それでも静かな店内では彼の耳へ届くだろう。返事を聞く為再び向けた視線の先、淡い照明が照らす想い人はこうも輝いて見えるものか。他の刀剣と同じ場所にいたってすぐに見つけられるのは、高い背のお陰じゃない。「私は、」そう続けようとする言葉を遮るようにカクテルが届くから、言葉を飲み込んで逆三角形のグラスを手に取った。)見て、これはブルーと名は付くが色味は紫にも似ていてね。何処となく君を思い出すような色なんだ。(薄暗さの残る店内では青にも紫にも紺にも見えるその色につい漏らした言葉は途中であっと気が付いた。「カミカゼは切れ味の鋭いものでね、似合うかと思って」と慌てて付け足して、変な意味は無いとばかりに目線を上げた。直ぐに察したようなバーテンダーの口角が上がっているのが目に入り、年甲斐も無いと緩く頭を抱える姿はどう映っただろうか。)

06/27 20:19*93

nhng.png

(注文を受けたバーテンダーは手際良く用意を進めていく、流れるようなその手腕は厨番たちの手付きとも異なった繊細さを有しているようで思わず眺めてしまう。軽やかな音を立てるその手元を見つめていた視線を引き戻したのは隣からかかる声だった、お互い酒が入っている為かいつもよりずっと柔らかに響くそれに目を向けるとどうやら同じようにカウンターの向こう側を見つめていたらしい横顔が此方を向いた。はた、と一つ目を瞬かせて今日一日を振り返る。何軒も渡り歩くことなどそうそう経験できる事ではなく、ましてや日頃は本丸で大勢の刀に囲まれている想い人を引き連れてだなんて槍自身ですら考えもしなかった事で。彼の問い掛けに言葉を多く重ねる程饒舌ではない槍は静かに首肯を返す。そうして彼の口が開くより先に届くのはカクテルグラスとロックグラス、薄暗い照明の下カクテルグラスの中で揺れる液体は彼の言うように藤のそれより濃い色を湛えていて。)はは、俺を思い出すようなもんを最後の店で頼むなんざ臣下冥利に尽きるってもんだ。(臣下、と。日頃は己が逸話の一つである正三位を強調するような物言いが多い槍にしては珍しくそんな言葉を口にする、自らに言い聞かせるようなそれと共にロックグラスへ手を伸ばしては薄く白む中の液体を見下ろした。柑橘の爽やかな香りのするそれは度数も高いのだろう混ざる酒精の香も強く、仄かに口元を綻ばせてグラスをほんの少し頭を抱えている彼へ可笑しそうに笑いながら傾けて見せ。)そら、どうせなら最後の一杯に乾杯、ってな。

06/28 02:00*110

tsfm.png

(頷く一つの動作でさえ募る愛しさは言葉を重ねるよりも深く響き滲む嬉々とした気持ちは上がる口角で示された。自身以上に多彩な経験を積んでいるであろう彼もこうした動きで何処か幼さを感じるのは、見掛けと過ごした年数からか。茶化す声も邪魔する姿も無い空間に鎮座したグラスへ指先を伸ばしながら、照明を反射する色に照れが交じる。)……君が私のところに来てくれて良かったとは本当に思っているんだよ。どの日本号でもない、君がね。(抱えた頭はそのままに、ええいままよと本音を付け足す。助け船と言うには揶揄する様な表情にも見えたそれすらも到底嫌いにはなれそうもない。確固たる自信を醸す平素の彼が臣下だなんて言葉を自ら紡ぐことの珍しさは遅れて脳へと流れ込みながら、隣のグラスを傾けた。)そうだね、じゃあ……今日という一日に乾杯。(初めのジョッキが奏でる音とは異なる繊細な高音をほんの小さく鳴らし、彼の色を一口飲み込んでは花の香りが口内へと拡がった。甘さが尾を引くそれはまるで逃げられない味であるから、視線は再び緩やかに移動する。目に入るひとつを検討するように眺めて。)そうだ。……日本号くん、私は元々音楽で生活をしていてね。今日の感想はそれで君に伝えると言うのはどうだろう。(バーの隅に置かれたピアノはどうやら今も使えるらしい。先程止めた言葉の代わりにとその楽器を指して問いかけた。言葉を交わすとボロが出そうだと言う本音は今度こそ飲み込んでしまいながら。)

06/29 02:38*147

nhng.png

(本丸であれば今頃物珍しい酒に嬉々として絡んでくる大太刀や主に対してなんだその態度はと小言を重ねる打刀もいようものだが生憎今この場には己と慕う主と見知らぬ誰かしか存在せず、刀剣男士冥利に尽きるその言葉も胸の奥に秘めた恋心の薄布を被せてしまえばまるで特別な言葉のようで自然と口元が緩む。薄暗い照明の下では然程目立ちはしないだろうと口を引き結ぶことはせず、本来であれば触れ合わせることは良くない薄いカクテルグラスと厚いロックグラスの縁が立てる軽やかな音を聞きながら揺れる液体へ視線を落とし。)そりゃあ、あんたが良いと選んだからだろうよ。俺達だっておいそれと呼ばれて顕現される訳じゃあねえのさ。(喉へ流し込む酒は爽やかな香りを引き連れて粘膜を焼きながら胃へ滑り落ちていく、槍好みの剃刀のような鋭さを持ったそれに満足げに一息吐き出すと不意に思いもしない言葉が隣から飛び出したことで目を瞬かせた。主といっても本丸に来る前の事を深く聞いたことはない、彼の過去の断片に僅か指先が掠めたような気がして一度グラスを置いた。バーテンダーへ視線を投げてみればどうぞとばかりに頷かれる、ならばと彼へ視線を戻し。)聞かせてくれ、本丸……うちにゃあんなでかい楽器はねぇだろう。どうせならあんたの腕前を知るのは俺が初めてだと良いんだがね。(近侍か、初鍛刀か、はたまた――彼の過去に触れた可能性のある刀は幾らでもいる。それでも己が初めてであれと願わずにはいられなかった。)

07/01 00:54*191

tsfm.png

君のことを私が選んだって?……ふふ、そうか……そうか、なるほどなぁ。(一瞬の間に巡る思考はきょとんと間の抜けた表情を伴いながら、納得は嬉しそうな破顔と共に恋心を再度自覚した。ブルームーンの水面が示す“叶わぬ恋”をそれごと胃の中へと仕舞い込んでしまいながら、自身には少し高めの椅子を降りる。おっと、とふらつく足元はその椅子を掴むことで気を付けながら「少しお借りするよ」とピアノの方へと歩いたなら、懐かしい楽器へ指先を伸ばした。)私がいつかまたこの楽器を使うならきっと今日だと思っていたんだ。……下手くそでも黙っていてくれる?(悪戯な表情は酔いと共に少し砕け、鍵盤蓋を開いたならキーカバーを外して白と黒の世界へ入り込んだ。ポーンと音色を確認してはその前へ座り一呼吸――いつしか音を忘れる程に審神者として一人立ちをしたつもりであったけれど、記憶以上に指は動いた。確かめるように和音を奏で、楽譜の無い頭で選んだ曲は明るくも柔らかなもの。気を利かせたバーテンダーが店内のBGMを下げたことで地下の小さな店へは5分程、生の音楽が流れた。何処か千鳥足を思わせる3拍子と、楽しい会話を思い返す旋律は彼へ向けて。先程の覚束なさを忘れたように動く左右の指先は、現役時代までとは言わないまでも数年のブランクを忘れさせるように鍵盤を撫でる。それが愛を奏でる音楽と知っているのは未だ自分だけで良いと言う気持ちを飲み込みながら。)――……今日はありがとう、日本号くん。(その後リクエストに応えて何曲かを奏でてから、最後の帰路を歩む中。)久し振りに彼女に触れて嬉しさもあったんだ、初めての相手が君で良かった。……良かったら、また私の練習にも付き合ってくれないか?お礼は勿論酒代で。(そうして最後にいちばん大きな我儘を。瞑った片目はまたいつかと言う曖昧に形を作る約束の為に、返事がどうあれその日はきっと明るい鼻歌が本丸にも流れる。)

07/03 23:49*263