(誉十個の褒美は美酒を、いつの頃からかそう決まっていた。その時々で種類も産地も異なるけれど上等な品ばかりを指名して、同伴に与ろうと酒飲みたちが自室に集まるまでが一連で。きっと今回も良い酒のお零れに与れるのだろうと期待の眼差しを向けて来る大太刀を制して槍が希望したのは――、)現世の飲み屋に行ってみたいんだが、あんた良い店知ってるかい?(当然酒飲みたちからブーイングが巻き起こるが何せ誉を取ったのはこの槍なのだからそれ以上の文句は無い、はいはいといなしてそれから、当日は思っていたよりあっという間に訪れた。主と現世に行くのなら身だしなみはきちんとしろ、とはいつも眉間に皴を寄せた昔なじみの言。いつものつなぎ姿ではなくこざっぱりとした白いシャツに色の濃いジーンズ、羽織る上着も黒で概ねモノトーンでまとめ首からいつもの飾りを下げてそうしてみればラフな格好だとはいえ多少なりと正三位らしい姿に見えるだろうか。手に持った端末には酒飲み仲間たちと調べたバーの情報が詰まっている、現世で酒を飲むなら夜だと言うがその実意外と昼間から開店している店もあるようで。誘い出した身であればこそ、酒場以外でも彼に行先に覚えがあれば端末を仕舞い込んで護衛よろしく着いて行く心積もりではあるけれど。)どうにも現世ってのは人が多くて面倒だな。(思わずそう溢すのは人間に紛れるには些か立派過ぎる体躯が目立つせいか、少し低い位置にある銀糸を見下ろしてどうする、とばかりに肩を竦めた。)
06/17 01:13*6
現世の?(つい口をついた言葉はブーイングの渦に混じって不思議そうな響きを浮かせた。誉の褒美は本丸に於いて初めての出来事では無いにしろ、意外な言葉に豆鉄砲を食らった顔はほんの一瞬で二人きりの図を描いて目線は左下へと飛ぶ。その言葉を噛み締める前に知ってか知らずか近侍の声が横槍してくるものだから、こらこらと軽い注意を促すけれど――つい気分まで浮いてしまうのは、この男にとって仕方のないことだった。年甲斐もないとか、審神者であるのにとか、思うところこそ沢山あるとしても。淡い色のパンツに藍色のシャツ、暗くも白の混じった濃い灰色のジャケットへ腕を通す頃には褒美を貰ったのは何方かと息を吐いて整えた。慣れた服装も今となっては懐かしく、おかしくないかと近侍へ聞く姿はまるで彼には見せられよう筈もない。そうして迎える当日のなんと早いことか。)……まあ、その分美味しいものも多いと言うしね。飲み屋と言うと私はバーに行きがちだったが、一度はどうかな。ああ言うところも。(自身の身長はそれなりに高い方だと自負していたけれど、隣を歩く頭は更に高く目線を上げた。眩しい程の姿に細めた瞳を誤魔化すべく指差したのは昼でも開けている所謂大衆酒場で、「現世ではね、何軒も渡り歩いて良いところ取りをしてしまうんだ」と小さく告げる。それは暗に彼の集めた情報も腐らせず、そして大いに楽しもうと誘いを孕ませて。彼の褒美なのだ、折角ならば楽しんで欲しい――その姿を隣で見ることが叶うだけで、幸福を感じられるから。)そうだ、一つお願いがあるんだけど良いかな?そう難しいことじゃあないと思うんだ。(いずれにせよ入店した先で、思い立った顔は愉しげだ。)
06/17 16:04*20
美味い酒があるんなら俺はあんたの好きそうな店が気になるところだな。(さて並び立つ男二人、行き交う人間の目にはどう映っている事か。職場の上司と部下、親戚、まさか懸想している身とは誰しも思うまいと時折ちらちら視線を投げ掛けて来る人々から目を外して指差された大衆酒場にそのまま移す、既に客が入っているのだろうそこは成程悪くはなさそうだと一つ頷いた。少し低い位置から聞こえる小さな声に目を細め、エスコートの真似事でもしようかと一歩踏み出した。見た目だけで言えば然したる差はないように見えるかもしれないが黒田刀剣としては年若い部類に入る槍は今日この日を前に、兄貴分に当たる刀と主第一を公言して憚らない打刀に散々現世での振る舞いを叩きこまれてきたのだから。そうして足を踏み入れた先、大衆酒場の名の通りそれなりに賑やかなそこで掛かる声に目を瞬かせ。)お願い?はは、良いぜ。正三位にお願いなんざ、あんたしか出来やしねぇんだからよ。(がやがやと賑やかなそこで新しい客に気が付いた店員が空いている席を勧める声がかかる、それに片手を上げて返しながら首を傾げた。既に出来上がっているらしい客の姿も見える中カウンターとテーブルどっちでもと重ねられる声に考えるように目を向けて、槍の巨躯には些か狭い通路で通る人の邪魔にならないよう脇に身を寄せつつ――伸ばした片手は通路を通る誰かが己が主に触れないように、当然それは主を守る為の動作であるけれどほんの少しの下心も、無きにしも非ず。)
06/18 12:59*59
(一歩前に出る姿に瞬く双眸はその意味を察せないままに慌てて隣へ戻りつつ、歩く姿がよもや親子に見えまいと時折周りを見てしまうのは他の仲間たちでは無いことだろう。気にする程見られるのも少しの間、現代に於いて珍しい高身長程度のものかと思いつつもその表情のひとつを取っても審神者目には――一人の男からは魅力的に見えるものだから一抹の不安も混じってしまう。大衆酒場を初めに選んだ理由の一つにはその騒々しさが良い意味で二人を目立たせなくさせるという目的もあったから、下心に浸かった望みが顔を出すのも仕方無い。カウンターでは狭かろうとテーブルを選び、空いた狭い席で腰を落ち着けながら。)あは、私だけか。まあ私は君の主だからね。……そう、主だから、今日は――いや、そうだな。現代にいる間は私のことを名前で呼んでくれないかなと思って。(守られる動作には義理堅い彼らしいことと思いつつ、使い古されたメニュー表へ向ける間もなく「生を2つ」と勝手たる注文済ませ、普段彼に強請られるものと異なるとは知りながら現代の仕来りのようなものだと説明を挟み。運ばれてきたジョッキは氷のように冷えたそれで、早々に1つを掲げた。)一杯目は君とこれで始めたかったんだ。今日は楽しもう、日本号くん。乾杯。(彼が許すのならばそうしてカチンと明るい音が2人きりの飲み会の始まりを響かせるか。)
06/20 22:58*145
(がやがやと賑やかなそこは成程大衆酒場の名の通り質より量といった様子で様々な料理と麦酒に舌鼓を打っている客の姿がそこここに見られる、酒飲みが多いとはいえ付喪神の集う本丸ではそれなりに良い酒が提供されることが多くこういった場は槍にとっては酷く新鮮だった。テーブル席へ大柄な身を縮ませて押し込めると正面に腰を下ろした彼へと目をやる、メニュー表すら見る事無く早々に注文を済ませてしまう様子に僅かに首を傾けるもすぐにその疑問が氷解すると置かれた湯気を立てる御絞りを手に取った。)名前で、なぁ。へし切辺りが効いたら卒倒しそうだな。ま、確かにこっちじゃあ普段の呼び方の方が浮いちまうか。(鷹揚に頷くと同時、運ばれてくる良く冷えているらしい結露したジョッキを片手に持ち上げかちんと涼やかな音をひとつ。口を付けたガラス製のそれは見た目通り身震いするほどに冷たく、咥内を刺し喉を焼いて滑り落ちていく苦味は心地好い。一息に半分程を流し込んでは深く息を吐き出しメニュー表を手に取った、空の胃に酒を入れるのは良くないよ!とはいったい誰の弁だったか。所謂居酒屋メニューが並ぶページを開くと彼の眼に入りやすいようにと向きを変えて置き直し。)ある……あー、俊史さんよ。あんたのおすすめはなんかあるかい?(大きな文字と映りの悪い写真が並ぶメニュー表、当然どれも酒に合う物であろうけれど彼の好むものを知りたくて。広げたままのメニュー表のすぐ傍ら、つ、とジョッキの表面を滑り落ちていく水滴がテーブルに小さな水溜りを作っている。)
06/22 01:31*186
それもそうだ、二人の秘密と言うことにでもしておこうか。普段呼ばれても構いはしないんだけれど。(つられて手に取る御絞りをあちちと両掌で数度跳ねさせてから汚れを拭き取る姿は主と言うより人間らしくもあったかもしれない。名前を聞いて浮かんだ顔に思わず溢れた笑みは日常を思い出したが故、目の前の非日常は簡素な音頭によって未だ始まったばかりであるから良い呑みっぷりに感嘆するも束の間目線が戻る前に手元で弾ける冷えた泡を喉奥へと流し込んだ。平素に比べ数度熱を帯びる身体には心地良い。)……っふ、やっぱり最初はこういう店にして良かったかもしれないな。(独り言にも近いトーンは、それでもぎこちなさの残る呼び方に擽られ屈託の無い表情を浮かべながら。)そうだな、取り敢えず私は枝豆が欲しい。それから冷奴も、……、……うん?なんだかいつもと変わらないかな。(審神者と言えど人の子、酒飲みの多い本丸では当然自身もつられることが多く彼と共に酒を交わした回数は少なくない。二人きりでなければ。)タコの唐揚げは好きだよ。砂ずりも良いし、となると焼き鳥、いや新鮮な刺身も……あ。でもここで満足しきってはいけないか。(決して状態が良いとは言えないメニュー表も何処か懐かしさを覚えて上から指で文字を辿りつつ、ここはあくまで一軒目だと自分へ言い聞かせ「君と居るとつい気分が高揚してしまって」等と宣う軽口も今日こそは満点の本音を交えたけれど。仄かに含んだアルコールで漸く解れ始める緊張が代わりに取り戻すのは日常か、慕情か。)
06/22 19:53*205
俺がそう呼んでるところを見られてみろ、抜刀されちまいそうじゃねぇか。(青筋を立てて怒り出すだろう昔なじみの姿は想像に難くなく、傍らでしゅわしゅわと弾ける音を立てる黄金色をした酒に視線を向けながら肩を竦めた。呼び慣れない響きを持つ己が主の名を閉じた口の中で何度か転がし、向かい合うその指が示す肴の数々を眺めては確かに本丸で酒飲みたちが作るそれと大差なく。勿論隻眼の太刀が作る横文字の何か良く分からないお洒落な肴も美味くはあるが洒落っ気に凝り過ぎている為か食べた気にならない、とはさすがに口には出来ないがどうやらこの店のメニューは酒飲みたち側の品ぞろえのようで密かに胸を撫で下ろした。喉を刺激しながら滑り落ちていく酒と合うのは果たしてどの肴か、まじまじと向かい側から眺める槍の目に留まったのは、)お、これ美味そうだな。普段は御手杵と同田貫が殆ど食っちまいやがるからよ。(刺身の盛り合わせだった。苦味の強い酒と合わせるには向かないだろうが、本丸において他の刀が食べたいと言えばとある打刀ではないが正三位の面が多少強く表れているのか「持てるものこそ与えなくては」といった精神が働くようで。見た目こそ年嵩の姿で顕現された槍はその実刀剣男士らしくよく食べる、槍という刀種がそもそも燃費が悪いという事もあるだろうが正面に向かう彼はそうではないだろうとほんの少し心配の滲む視線を向けた。どうにも浮かれている自覚はあるからこそ、頭を落ち着かせようと深く息を吐き。)ここで腹膨らませようって訳じゃあねぇしな。(まだまだ非番は始まったばかりなのだからと、機嫌よく笑って見せた。)
06/24 01:32*249
あっはは!確かにそうだな、それならやっぱり日本酒が合うかな。良いとも、ではそれを頼もう。(不思議そうに見た先のメニュー、ビールと合わせることは少ないそれも理由を聞いて思わず溢れる笑いは勿論純粋な愉しみによるもので直ぐに空になりそうなジョッキを見ては酒のメニューへも手を伸ばした。こちらを伺うような目線へは「私の分も君が食べてくれるって?」と悪戯な問いかけを一つ。見た目だけで無くその体内も年相応の男は自分の限界を知っているからこそ無理はしないものの、頬杖を付いた先の彼の表情を見るだけでも膨れる気持ちだった。注文は手際良く、そうして幾つかのつまみと酒の空皿が並んだ頃には席を立ち次の店へ。立ち飲み屋で一杯、居酒屋で一杯、バーでは洒落たカクテルでも。彼が調べて来てくれたその店名をなぞって進む足取りが時を追うごとに軽くなるのは、回った酔いの所為と言うことにしたい。つい隣を歩く距離が縮まるのもそうであると言い聞かせ、空が暗くなってもこの辺りはまだまだ明るいからと仄かに上気した頬はそのままで。)はは、大変だ。帰りたく無くなってしまうなぁ。(溢れたのはそんな言葉。「そうだ、日本号くん」それから一つ零した声は一瞬の間を置いてひとつの店を指差した。注視しなければ見逃してしまうような、小さな看板。)帰る前に一軒だけ、私の行きたい店に行っても良いかな?(最初と最後に加わった我儘を果たして聞いてはくれるだろうか――なんて思う間すらもアルコールへ溶かして、否の返事を聞いたって連れて行ってしまおう。帰りの道すがら、機嫌の良い男の声が響く。)
06/25 22:17*274