ハプニング!迷子を案内してあげた。一緒にお母さんを探してくれた親切な人にお礼をしよう。
*85*
(くん、と、首元から延びる包帯を軽い力で引かれたことにその騒動は端を発する。刀に手をかけて振り向けば包帯にかけられていた力は解け、代わりに眼前には涙をいっぱいに湛えた幼子が姿を見せていた。げ、と、知らず声が漏れる。短刀たち相手ならば多少遠慮はせずに済むものの、こんな小さな、見るからに弱い人の子など。知らず足を半歩引けば、幼子は何を想ったのかぼろぼろと涙を零し始めてまた狼狽えた。狼狽えたところで子供を慰めるすべなど持たない脇差であるので慌てた調子で周囲を見回すが、主の姿も同本丸の仲間の姿もない。――が、すれ違う人影に、一も二もなく声をかけた。いっそ服の裾でもつかんでいたかもしれない。)頼む。なんとかしてくれ。…子供とか、無理だ…。(肥前忠広にしては珍しく弱ったように助けを請うた。――やがて、迷子だったらしい幼子からどうにかこうにか聞き出すことの叶った情報に即して母親を見つける際に、手分けがかなうとしたならば相手に幼子の傍につくことを頼みたがっただろう。小さな子供の扱い方などとんと知らない。そうしてようやく幼子が母親の元へと帰りついたのならば、戦場帰りにもない疲労感に大きく息を吐き出して。)………なんなんだ…厄日か…。(己なんぞに縋るとはあの子供の将来がいささかに心配にもなろうもの。大きく息を吐き出せば、切り替えるようにして相手を見る。)悪い、助かった。時間取らせたな。(襟足をかいてどうにか平常の態度に戻そうとはしているが、精神的疲労感が強い様子だった。)
06/09 20:03*87
(不意に掛けられた声が肥前忠広という脇差のものであることは、大倶利伽羅にも十分に認識できていた。但し、反射的に足を止めた先にいるのが件の脇差だけではないと――しかもそれは見知らぬ人間の子供であると理解した時、眉間の皺は深くなった。)…………何故、俺が。(低く発した言葉は否定の意も孕んだだろうが、目の前に広がる光景をどうにも放っておけないと思うのは、些か俗世に染まってしまったが故か。盛大な溜め息と共に腰に片手を当てつつ、問い掛ける対象は脇差――ではなく子供の方。)……おい、あんた。俺か此奴か、どちらか選べ。(揃いも揃って強面が二振り。果たして子供はどちらを選んだだろうか。もし選ばれたならば潔く抱き上げるものの、もし彼の方が選ばれたなら「そら、抱き上げるか手でも繋げ」と一言を投げ掛ける筈。――どのくらいの時間が経ったか、無事母親の元へと送り届けた後、盛大に息を吐き出したタイミングは奇しくも彼と同じで。つい視線も自ずと彼の方を向くだろう。)……今度声を掛ける時は、光忠か貞宗にしろ。そっちの方が向いている。(首を僅かに傾けながら口に出すのは昔馴染みの名前。大倶利伽羅とて皆が皆、手助けをするわけでは無い。彼の今後の為にもその方が良いと思ったのはひと振りの内心にのみ。やがて何事も無かったかのように踵を返して去っていくだろうが、その後ろ姿はまさに一仕事を終えた後のような疲労感を漂わせていた。)
06/09 20:47*92
(助けを求めた先の刀の姿を碌にみてはいなかったために、まさかそれが大倶利伽羅であるとは想像もしていなかった。深くなる眉間の皺に己の余裕のなさを呪わずにはいられなかった。低い声に彼を選んだ理由自体を持たない脇差はどことなく申し訳無げな瞳のまま。なれ合いを好まない性分というのは理解しているつもりだった。そんな彼のため息にやはり他に声をかけるべきか、と目線を動かしかけたところに、こわもて二振りを前に母のいない不安ばかりを顔に描く子供へとかけられた声に暫時瞬きを。)…は?いやおい、(服の裾をつかまれてまた狼狽える。そんな状況であったから大人しく彼の言に従って抱きかかえることにした。明確な指示に流された、ともいう。体格自体は幼子を抱きかかえたとて問題はないが、子供を抱きかかえるだなんてこの肥前忠広の刃生経験上には一瞬たりとも存在しないものであったためにおっかなびっくりが滲むそれであったろう。――そんなこわもて、無愛想が二振りそろったとて迷子を母親と合流させることがかなうだなんて、それ自体が奇怪極まる状況ではあるのだけれど。)…まさか、本当に助けてもらえるとは思わなかった。……ああ、気を付ける、…本当に助かった。悪かったな。(思わず零したその言葉が礼を失していることに気付いて「すまん」を続けたが、互いにさほどこうした状況が得意でもない者同士、余計な負担を強いたことは素直に申し訳ない。――帰るかな。思いがけず疲労感に満ちる大騒動を後にして、自然とそんな気持ちがわいていた。)
06/09 21:31*98